小晦日

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 もっとあの人を苛つかせないような神経の細かい人だったら良かったんじゃないかって思う時も、まだ無くはないけど。  察したように、義弟は言った。 「まあ、あの性格だから毎日一緒に居たらいろいろあるの想像つきますけど。本人は悪気ないし、それに嫌いな人間と我慢して20年も居られる性質じゃ絶対ないんで。自信持った方が、いいですよ」 「……ありがと」  こっちの方が立場は姉なのに励ましてもらって、なんだか申し訳ないなと思っていると 「ところで……」 改まった調子で、彼が言った。 「ちょっと、相談……というか、義姉さんに聞いてもらいたい話があるんですけど。それで図々しく上がらせてもらったのもあって」 「全然構わないけど、何?」 「……千尋の、母親の話なんですけど」  普段快活な彼にしては珍しく、眉を寄せ顔を曇らせる。 「……5歳の時に離婚して、ある日突然居なくなったっていう?」 「って聞いてますよね。俺もそう聞いてましたし、俺の母も、他の家族も父以外は皆そう思ってたはずです」 「違うの?」  少しの間を置いて、彼は言った。 「……千尋のお母さんが結婚する時に一緒にうちに来たお手伝いさんがまだ健在で、もうずいぶん昔にうちは辞めたんですけど、父にしてみればお世話になった人だから盆暮れの付き合いは続けてたらしいんですね。俺の母には内緒で」 「うん」
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