小晦日

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 本当に私が何も隠していないか確かめるように見つめると、肩で息をついて彼は言った。 「ごめんよ。自分でも、気にし過ぎかと思うけど……でも、嫌なんだ。もう、前触れも無しに誰かを失うのは」 「――――病気だった、って……」 「離婚したのは本当です。ただ、余命僅かの時だったそうです」  夫に面差しの似た整った顔を歪めて、義弟は言った。 「どうして、そんなこと……」 「千尋のお母さん、どういう人だったか聞いてますか?」  小さい頃だから自分自身にはあまり記憶が無いけど、という前置きつきで父親や他の人から聞いた話を、ぽつぽつと夫がしてくれたのを思い出す。 「……いい家のお嬢様で、だからお手伝いさんを連れて嫁いできて……あの人はそのお手伝いさんの作るものしかしばらく受け付けなかった、ってくらいしか。……あと、体の弱い人で次の子が見込めなかったから、一臣君が産まれるようにお祖父さんたちが……っていうのは聞いた」  苦笑いを彼は浮かべる。 「そうですね。その通りです。……ジイさん、商才はあったらしいけど人柄はまあ、お察しですね」  ひとつ息をついて彼は続ける。 「時代もあったろうし、自分が成り上がりなもんだからいいとこのお嬢さん連れてきて結婚させて、までは分かるけど。……男が生まれても自分の気に入るような子供じゃなかったから次って……ねえ」
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