小晦日

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 離婚するか、他所で作るか迫られて、ということだったらしいけれど……。 「それで、そのためだけに生まれた身にもなれよ、……ってのは、すいません。聞かなかったことにしてください。考えても仕方ないことだから、普段はそんなこと考えないんですけど」 「……当たり前だよ。あの人が、大人になってもあれだけお母さんのこと引きずってるんだもの。一臣君だって、その歳で割りきってなんて、無理だと思うよ」  普段は明るい人だけど、やっぱりそれはどうしようもない影響を与えてるんだろう。  彼は唇を噛みしめるように結んでいたけれど、ふうっと溜息をつく。 「……ありがとうございます」 「ううん」 「……話戻すと……何しろ、周りの話聞いても千尋によく似てたみたいです。いや、千尋が似てるんでしょうけど。ああいう気性の激しい人だったみたいで」 「うん……」  あの人のお母さんというだけで、想像はつく。 「でも父は……そんな経緯がなければ浮気なんてしなかっただろうってくらい、大事にしてたみたいです。俺からしたら、それなら千尋とその人連れて逃げちまえば良かったのにって思うけど、お嬢様で体弱くて貧乏暮らしなんて知らないような人を外に連れ出すことも出来なかったのかなとも、今この年齢(とし)になると思います」
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