小晦日

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「……うん」 「……で、……お手伝いさんの話だと、本人は、まだ小さい千尋に親が死ぬところなんて見せたくないからって言ったらしいんですけど、本当は自分が耐えられなかったんじゃないかって言ってました。生きてるうちに離れて、お母さんはある日居なくなったってことにしたら……千尋の中ではずっと生きてることになるから……って」  私が眼を伏せると、義弟は申し訳なさそうに言う。 「すいません。変な話聞かせて」 「あ、ううん。そうじゃなくて」  私は首を振った。 「なんか、……あの人も同じようなこと考えそうだなって」  彼は眉を寄せ少し考える表情を浮かべて、言った。 「それは、俺も思いました。……あと、これは俺の勝手な考えですけど」 「うん」 「俺と母の存在は秘密でも何でもなくて皆知ってたことですから、自分が死んだ後、俺と母が家に入ることは、千尋の母親は百も承知ですよね。……だから、死んでから自分の家族を好き勝手にされるより、自分から縁切って外に出て……ってのが最後のプライドだったようにも思えて」 「でも、それは一臣君が気に病むことじゃないよ?」  一瞬、間があって、彼は苦笑いする。 「顔に出てましたか」 「あ……うん。ごめんね。そう見えた」
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