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歳の瀬の誰も居なくなったリビングで、好きな音楽を流しながらお茶を飲んでいるとインターホンが鳴った。
こんな日にセールスでもないだろうに、と思いながらモニターを見ると小窓に映ったのは義弟だった。
「ちょっと待ってね」
玄関のドアを開けると、夫よりもすらりと背の高い義弟の一臣が人懐こい笑みを見せた。
「こんにちは。ご無沙汰してます。すいません。年末の忙しい時に」
「ううん。あたしは全然忙しくないから」
答えると、家の事情を分かっている彼は笑う。
「兄貴、出かけてるんですか?」
「うん。ごめんね。ちょっと」
「……何かありましたか」
さすが半分しか血は繋がっていなくても兄弟。察しがいい。
「あのね、今朝おせち用の出汁を取ってたんだけど、毎年買ってる昆布が今年は手に入らなくて、違うのでやったら美味しくないって気に入らなくて、それを買いに」
「あー……」
彼は宙を見上げ
「遅かったか」
と呟く。
「遅かったって?」
「もしかして、こういうやつですか」
彼が手にしていた紙袋から取り出したのは、百貨店の贈答品コーナーにあるような立派な昆布だった。
「それ……」
「お歳暮でもらったんですけど、うち誰も使わないんで、これは兄貴だなと思って持って来たんですけど……ひと足遅かったな」
彼は苦笑いする。
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