洗濯日和

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「ごめんね、びっくりさせたよね」 10分後、私達はホテルの一階でバイキング式の朝食をとっていた。 世界で1番エキセントリックな目覚めを迎えたお陰か、朝はコーヒーのみで始める低血圧な私もヨーグルトやフルーツなんかを食べている。 一方、男は朝っぱらからハッスルしたせいでお腹が空いたのだろう、サラダに始まり、パンに卵にお肉にご飯にシューマイと、がっつり食べて口の周りを汚している。これまでの3回のデートでわかっていたことだが、この男は食事が下手だ。 「毎朝、ああいう体操番組を見てるんですか?」 「番組じゃないよ、アレ」 「え?」 「昔ご近所さんから買ったDVD」 彼がウエストポーチから出して見せてくれたのたのは、写真をコピー用紙に印刷しただけのジャケット、といういかにも手作り感溢れるパッケージだった。 ホテルの上等そうなテーブルクロスの上から暑苦しい笑顔を向けてくるマッチョと、なんとも言えない顔で見つめあう私。 この真ん中の金色のレオタードの人が先生でね、と、男は聞かれてもいないのに説明を始める。すごい優しい喋り方してくれるから頑張れるんだよね。ニューハーフなんだけど、フツーの人だよ。昔は何度か家にもお邪魔したんだけど、一緒にお菓子作ったりなんかしてね。 「僕、すっごいインドアだからさ。朝から外ランニングするとかは無理なんだけど、アレをしないと1日が始まらないんだよね」 男はにこにこと締めくくった。 もしかするとこの流れでDVDを売りつけられたりするのかと思いきや、話題はあっさりと今日観にいく予定の映画の話に移って、私はむしろ拍子抜けした。
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