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ホテルを出ると、冬の冷気で凍りついたかのように男の表情が抜け落ちる。
そう、この男、“内”と“外”ではまるで別人のように態度を変えるのである。
“外”にいる間の彼は、ほとんど口を開かないばかりか、並んで歩いていても目すら合わない。ファーストコンタクトの際、彼が“外”モードだったので「クール(無愛想)な男なんだな」という第一印象を受けた私は、後に2人きりになって彼の“内”の顔を見たときは驚いた。どうやら、陽気でおしゃべりな“内”の顔の方が彼本来の性格らしいのだが、あまりの豹変ぶりに最初は何かに取り憑かれたのかと思ったくらいだ。
信号待ちの間、話も弾まず暇なので、およそ40センチ上にある男の顔を観察する。
彫刻のように整ったその横顔。肌が白いのも相まって、見た目からはおよそ血が通った人間らしさというものが感じられない。
最初、アプリで送ってもらった自撮り写真を見た時は、編集で盛ってるとしか思えなかったが、そこはお互い様というもの。
年は29。
仕事はIT系。
身長は高くガタイは良い方だが、インドア派でスポーツは苦手。
趣味は映画鑑賞で、主にアクションものやハリウッド系が好き。
たまに、サスペンスものも観るが、グロテスクすぎるホラーやゾンビは苦手だという。
そんなプロフィールを見て波長が合うと思ったのはもちろん、そこから実際にメッセージのやりとりを重ね、返事の素直さと平日の昼間という安全な時間を指定してきたことが決め手となった。
そしていざ会ってみれば、写真を3割り増ししたかのような顔立ちの大男がいて、反射的に踵を返したくなった。それでもかろうじて踏みとどまったのは、新作映画がどうしても観たかったからにすぎない。
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