洗濯日和

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姦しい声がだんだんと勢いがなくなって行く。話しかけている間中男がずっと無表情かつ無言で、静止画のようにピクリとも動かないからだ。視線は宙の一点を見つめたまま、文字通り固まっている。 そんな彼にある種の異様さを感じ取ったらしく、ナンパ女たちは腰が引けていた。「やだ、ちょっと怖いよ…」「やめときなって」と、他の2人に止められながらも、勇気ある背の高い女が顔の前で手を振る。が、それにも瞬き1つしない男(そもそも女達が視界に入っているのかも怪しい)に完全に諦めたらしく、最後は半ば怯えた様子で逃げるように去っていった。撃退成功。 毎度のことながら斬新なナンパのやり過ごし方だ。私がちょっと男から離れるたびに繰り広げられるお約束シーンなので、こっちも慣れたもので、よーし終わった終わった今日も面白かったとタイミングを見計らって歩み寄る。巻き込まれるのは面倒なので助ける気はない私も私だ。 私たちが観るのは主に洋画で、今日はとあるヒーローもののシリーズ最終章だった。人気とあって公開初日を避けた上で平日の午前中を狙って私が事前にネット予約した。この男と映画を観るときは、後列の人の視界を遮るのを避けるため、席は当然1番後ろになる。 「ポップコーンってなんでこんなに美味しいんだろうね」 席に着くと、照明が薄暗いのと周りにまだあまり人がいないとあってか、珍しく男は気を緩めた。 「私、映画館のポップコーンが1番好きです」 「僕も。前にどうしても食べたくなって一回コンビニで買ったことあるけど、同じ塩味でも全然違うからびっくりしたよ」
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