96人が本棚に入れています
本棚に追加
3枚目
「3枚目なんだけど」
一人呟いてみる。
まぁ3枚のうち、2枚は水瀬から渡されたものだったけど。
俺はどれだけ前世で不徳を積んだんだろうか。
新たに渡された、同じ書類を前に溜息しかでない。
「どうかしたのか?」
ドアをノックしながら、湊が現れた。
社長室は基本、ドアが開いているから、俺が溜息をついている様子を見ながら、コイツはノックしたんだろう。
「サインしたくない書類があって・・・それより日和の様子はどうだ?」
仕事モードの湊にこんな相談できるはずもない。
「日和なら・・・ちょっと悪阻が辛くなってきたみたいだけど、どうにかな」
「早めに産休入るか?」
「とりあえず定時上がりで今の所はどうにかなりそうだけど」
「しかしなぁ、湊も父親かよ。水瀬もしっかり母親してるし。残ったのは俺だけか・・・・湊、もし俺が父親になったら、どうする?」
「どうもこうも、普通のことじゃねぇ?」
まぁ、普通のことか。確かに。
「年齢的にも早すぎるってことはないし。そんな話をするぐらいだから、相手は見つかったのか?お前のお眼鏡に適う女性」
そうゆうところは相変わらず鋭いんだよなぁ、昔から。
「既成事実の方が先っていう展開・・・・子供できたって言われた。でも産みたくないらしいんだけど」
その書類を見ながら、俺の秘密をあっさりカミングアウトした。さすがに誰にも言わないでいるのは、それはそれで辛い。
「お前は欲しいのか、子供?」
「水瀬も、お前も、親だしなぁ・・・・俺もなってみてぇなぁ、なんて思わないでもない」
「じゃあ簡単だろ、説得しろ。金でも積んで、産むだけ産んでもらって、お前が育てりゃいいんじゃない?」
「俺で大丈夫か?」
「珍しく弱気だな」
この年齢で未経験の分野に挑もうとしているんだから、いつも通りというわけにはいかないだろう。
「・・・・よし、説得してみるだけしてみるか。こうなったら、将来的に、お前か水瀬の子供と結婚させるもありだな」
そう言った途端、関心がなさそうな顔をしていた湊の表情が変わった。
「ウチは断る」
「なんでだよ?」
「お前と姻戚関係なんてご免だ」
湊は重要と書かれた書類を俺のデスクに置くと、さっさと部屋を出ていこうとする。
姻戚関係ねぇ・・・・それはそれで・・・・イイ感じじゃね?
「柊亜、その相手、今度会わせろ」
会社で下の名前を湊から呼ばれることは滅多にない。
久しぶりだな。
そして湊佑季は、扉のところで振り返らずに一言だけ残して去って行きやがった。
一応、アイツなりに俺のことを心配しているととっていいんだろうか?
最初のコメントを投稿しよう!