幹部会

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幹部会

「湊、この前の投資先の件、どうなった?」 今日は幹部会と称したパワーランチで、久しぶりに湊、水瀬と俺の3人が会社近くの小料理屋の個室で集まっている。 喫緊の課題はウチが新規で投資を決めた会社の案件だ。 「あとは契約書作成が残るのみって感じかな」 相変わらず、湊は仕事が早い。 「水瀬、今後の方向性だけど・・・・」 「そうですね、上の方は入替必須かな。大体、女性向けのコスメ扱ってるのに、部長以上の幹部が全員男性って、どういう感性してるのよ。昭和なのよ。だから上手く広告うったところで、販売も伸び悩むって・・・」 今回の投資で中堅どころのコスメ会社が会社法でウチの連結決算の傘下に入ることになった。 「それじゃあ、俺と水瀬で社風を変えて立て直すか?」 そんな軽口を言いたくなるくらい、今回は順調だ。湊の手堅い数字の分析と水瀬の交渉力。やっぱり頼りになるし、代えがたい。 「こっちの本体の会社はどうするんだよ?それに社長自らがいく必要があるか?行くなら俺と水瀬だろ?」 「じゃあ、湊が向こうの社長やればいいか?」 「無理、俺、これから産休とるから。非常勤役員くらいならいいけど」 「じゃあ結城を行かせるか?実働部隊として。アイツならいい起爆剤になりそうじゃないか?人当りもいいし」 「えっ、あの会社なら私が行きたいのに」 今回の案件で誰よりも乗り気だったのは水瀬だ。 「結城夫妻で乗り込むのは、さすがに無理だろう。夫婦で同じ会社に出向させるのはいかがなものか?」 「会社では苗字違うし、大丈夫だって」 結城と水瀬は入籍済だが、水瀬は会社では苗字を変えていない。 最初は事実婚でいいと主張したらしいけど、水瀬が切迫早産になりそうになり、病院に提出する書類などもあったから、入籍した方がなにかと便利だという結論になったらしい。いろんな書類には夫である結城の名前さえ、書けばOKだから、なにかと便利だという結論に達したと言っていた。彼女はかなり合理的な思考の持ち主らしい。 「それはさすがに・・・・夫婦で同じ会社に出向って、ちょっとやりにくそうかな。特に結城のほうが・・・」 湊の冷静な発言に水瀬がムスッとしている。 「タイミングもあるな。湊が産休とるなら、俺も次とろうかな。そうなると、こっちが手薄になるから、湊が産休から戻るまでは、やっぱり水瀬はこっちにいてもらおう」 本業は基本だからな。そう言えば、水瀬も納得せざるを得ないだろう。 「結局、彼女、岡村さん、産んでくれることになったんだ?よかったじゃん、宗像社長」 水瀬がちょっと意地悪そうにこちらを見てくる。 子育てと仕事を両立しているせいか、以前より痩せたか?無理してなければいいけど。でも逞しさはましてるな。愛されてる余裕からくるものか、ちょっと前までの俺に対する冷え冷えしたような態度が少し丸くなってるような気がするのは・・・間違ってはいないだろう。 そう言えば、食事の支度は殆ど結城が担当していると聞いてるけど。 「なによ、マジマジと女性の顔をあからさまに見てくるなんてハラスメントじゃないの?」 「いや、前よりキレイになってるなぁと」 やっぱり女性は愛されているとキレイになっていくものなのか。 「珍しいな、宗像が水瀬を褒めるなんて」 「雨降るから止めて。洗濯もの干してきたのに」 雨降るとか、洗濯物とか、俺の評価、水瀬のなかでかなり低くないか? 「お前ら、人のことをなんだと思ってるんだ?」 「傲慢ワンマン社長」 そう言ったのは水瀬。 「いけ好かない自信家」 もっと辛口だったのは湊。 相変わらず手厳しいコメントをありがとうよ、二人共。 「でも良かったよね、岡村さん、碧ちゃんって呼んでるんだっけ?しっかしさぁ、二人して一回りも下の女子ゲットして」 「一回りじゃない、10歳下」 湊が反論する。 「同じようなものじゃん?」 「水瀬だって、この前の保育園の運動会でパパが若くて格好いいって言われたって、日和に自慢話してただろうが」 最近、湊と水瀬の掛け合いが多くなったような気がする。学生の頃から、仲は良かったけど。デジャブだな。 「それより番狂わせは宗像だよね。あんな美人さん、手に入れちゃって。最初はどうなるかと思ったけど」 「いろいろご心配かけまして」 確かに水瀬の言う通りであることは否めない。 「ホントだよな」 湊に言われると、ちょっとムカつく。 「ホントホント」 同調するな、水瀬。 「1番子供だった宗像が父親かぁ・・・大変だけど、子供はいいなって思うよ。多分、そう思えるかどうかはパートナー次第だけど」 勿論、子育て頑張りますから。水瀬も、そんなジト目でこちらを見ないで欲しい。 「それはそれで、こっちも、なんかプレッシャー感じんだけど。子育てはパートナー次第って、確かにそうだよな」 水瀬の発言に気持ちを引き締め直すのは俺だけじゃなくて良かった。 「でも確かに宗像が父親って・・・絶対、産まれてくるのは娘のような気がするけど」 湊の言うことは、いつだってひとくさりある。 日和の出産はもうじきのはずだ。湊も最近、定時で上がるようになった。 子育て真っ最中の水瀬の言葉は湊にとっても重いだろう。 「なんで産まれてくる子供が娘限定なんだよ?」 「お前が泣かしてきた女性たちがそうさせるような気がする」 相変わらずブラックな発言ありがとう、湊。 「産まれる前から嫁には出さないとか言いだしそうだよねぇ」 水瀬、今日は舌好調だぞ。 「お前らな」 珍しく、湊のスマホが鳴った。 「日和からだわ、ちょっとゴメン」 そう言って湊は席を外す。 「・・・ホント、良かったね、宗像。私のせいで結婚しないんじゃないかって、ちょっと心配してた」 ボソリと水瀬が言う。 「なんでお前のせいなんだよ?」 「責任、1番、感じちゃうタイプでしょ」 「そんなことないわ」 そう思ってたことは絶対いわないけどな。
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