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「だって、咲ちゃんの前は五年も空き部屋だったんだよ。もったいないよ。それに、そんなこと言ったら、とっくに追い出さなきゃいけない奴が二人いる」
「あ。そういえば……」
チラリと後部座席の凛太郎を見る。たしかに悠太くんはともかく、凛太郎さんは華村ビルを出てもやっていけそうだ。
チッ、と凛太郎が大きく舌打ちをする。
「おい、咲っ。今まで誤魔化してたのに、お前のせいでとばっちり食っただろうが」
不機嫌そうに声を荒げた。
「責任とれっ」
「え? 責任?」
そんなご無体な。
咲は引き攣った顔で凛太郎を見た。
「そうだ。責任とって、華村ビルに引っ越してこい。そうすれば、俺のことも誤魔化せる」
「はあ?」
なに、そのこじつけ。
咲は呆れて凛太郎を眺めた。
「だって、咲ちゃん」
花音がクスクスと笑う。
「ああ見えて、凛太郎も咲ちゃんのことすごく気に入っているんだ」
「うるさいっ」と怒鳴って、そっぽを向いた凛太郎の顔は心なしか赤く見えた。
「悠太くんだってすごく寂しがっているし。それになにより──」と花音はそこで言葉を切った。
「なにより?」と咲は首を傾げ、花音を見つめた。
「僕が、咲ちゃんに、一緒にいてほしいんだ」
そう告げた花音の顔は耳まで真っ赤だった。
そんな花音を眺め、それじゃあ伝わらねぇな、と凛太郎は心の中でぼやいたのだった。
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