170人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
「あ日置さん。」
フロントに出ると満面の笑みで三沢さんがソファーから立ち上がる。
そして、隣にいる田中さんを見て、表情を変える。
なのに、すぐに僕だけを見て、笑顔を作る。
なんかこわ…。
三沢さんは髪も短くして、タイトな洋服を背伸びした感じで着こなしている。
ずいぶんイメージかわったな。なんてのんきに考えてしまう。
「ご無沙汰しています」
僕は営業的に話しかける。
「ずっと電話してたんだけど、いつもいなくって…。」
え?電話?どこに?
「この人がぁ、たぶん取り次いでくれなかったんだと思いますぅ」
三沢さんは田中さんをちらっと見やってから、僕に不満を漏らすように言う。
「お話し中に失礼します。」
田中さんは、そんなことお構いなく、あいさつしてくる。
「ここではなんですので、外に出ましょう。」
と僕と三沢さんに、提案してくる。
三沢さんは田中さんに鋭い視線を向けたが、僕が
「そうですね、辻にあるカフェがいいですかね」
と促すと、僕の意見に乗ってきた。
「わぁ、日置さんのおすすめのカフェなんて楽しみィ」
柴野さんの言っていた,“メンヘラ”の脅威を思い知らされる。
とりあえず、一つ辻違いのカフェに向かう。
柴野さんには、広報がいなくなることを伝えておいた。
そのカフェは仕切りも高くて、テーブルにも余裕のある個室感のあるところだ。
外からも見えづらいし、お客さんに合うこともないだろう。
僕が田中さんをエスコートして、田中さんの隣に座ると、ちょっと渋い顔尾をいたけど、田中さんは僕の向かいに座った。
コーヒーを注文して、僕は本題に入る。
「あの、三沢さん今日はどうして…。」
「あ、はいこれ」
そう言って、三沢さんは封筒を俺に渡してきた。
表書きに、"佐相探偵事務所"と書いてある。
探偵?何かの調査資料?
「中見てください。」
きりっとした顔を田中さんに見せてから、僕にそういう三沢さん。
僕は、なんだかドキドキしながら、封筒を開ける。
とそこには—。
…っ!
僕よりも早く田中さんが反応した。
「ヤダこれ…。」
そこには、田中さんが彼氏さんとスーパーで買い物している写真が数枚入っていた。
「どういうことですか?」
僕は呆然として、三沢さんを見る。
すると彼女は、勝ち誇ったように笑って、
「日置さん、だまされてるんですよぉ」
と言った。
「は?」
「この女日置さん以外に付き合ってる人いるんです。」
三沢さんは、僕をうるんだ目で見つめてくる。
となりの田中さんからは、ふつふつと湧き上がる怒りを感じる。
「いや、なんでこんなこと探偵に調べさせてるんですか?」
ちょっと強い口調で問い詰める僕に、三沢さんはなおも続ける。
「日置さん、裏切られてるんですよ?それなのに、私が日置さんに連絡しようとすると拒んでくるんです。」と言って、田中さんをにらむ。
「連絡って…。」
そう僕が疑問にを口にすると、今度は田中さんが口を開く。
「黙ってようと思ったんだけどね」と一呼吸置く。
「広報あてに何度か電話かかってきてたのよ。」
そんなこと知らなかった。
「ほら、ここんとこ日置君広報室にいなかったでしょ?だから、そのまま伝えたんだけど、信じてもらえなくって…。」
確かに、ここ半年は、営業に出ていることが多かった。
「そのうち、広報につないだ途端に電話切れたりしてさ、私多分この子だと思ったから、日置君にも言わなかったのよね。」ごめん。と片手でごめんの仕草をする。
「そうだったんですね。こちらこそすいませんでした…。」ぼくもあたまを下げる。
「ね?ひどくないですか日置さん」
二人のやり取りが面白くないのか前のめりに僕たちの話題に入ってくる三沢さん。
「ごめんなさい、僕には三沢さんのほうが理解できません。」
僕のせいで、田中さんはプライベートを切り取られてしまったのだ。
許せない。
「でも…」
何か言いかけた三沢さんを僕が遮る。
「ていうか、知ってますし、この男性も、二人が付き合ってることも」
「え…?」
一瞬三沢さんが固まる。
「じゃ、じゃそれって二股ってこと?日置さんはいいんですか?」
そう詰め寄られて僕は、もう白状することを決める。
最初のコメントを投稿しよう!