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「違うんだ」
蒼さんの擦れた声が耳元に響く。
「俺が悪いんだごめん」
え?どういう‥?
「直人に嫉妬してほしくて、わざと他の人と仲良くしたんだ」
なんて‥。
「俺ばっかり直人を想って、直人の一挙一動におどらされて、直人に嫉妬して独り占めしたくて」蒼さん‥。
「今までこんなに気持ちをかき乱されたことなくて、他のことはうまくやれるのに、直人のことになるとわかんなくなっちゃって、でも直人の前では大人でいたい。余裕かましてたくて。」
そっと僕から離れて合わせた蒼さんの目は濡れていた。
「馬鹿だろ?直人を失ってもおかしくないような、最低なことをした」
少しうつむく。
「かっこよくいたくて、カッコ悪いな。」
蒼さん。
そうか、僕もっと素直に嫌なことは嫌って言えばよかったんだ。
もっと甘えてよかったんだ。
「蒼さん、僕蒼さんが思うより、蒼さんしか見えてないよ。でもそれって蒼さんにとって“重い”んじゃないかな?」
嫌われたくないんだ。
「直人、」
「だから、甘え過ぎないほうがいいかと思って‥」
そう言うと蒼さんはなぜかフッと笑った。
「お前、俺のことなめすぎ」
「え?」
「俺はお前のことそんな軽く思ってないから」
やばい、今わかりやすく僕は、蒼さんの沼に堕ちている。
「直人こそ俺の気持ち甘くみんなよ」
なんか完全にキャラ変わってるし。
「あぁもう遠慮しないから」
「え?」
整えられた髪をガシガシとかき乱して、礼儀正しい好青年は、僕の前からいなくなった。
「直人、ごめん、許してなんて言わないけど」
細められた目に見つめられて文字通り動けなくなる。
「俺のこと捨てないで」
多分蒼さん史上最も情けないセリフだろう。
なのにこんなにかっこよく見えてしまう。
「蒼さんから離れるなんて、できない」
僕はたまらず、蒼さんの唇を奪った。
ビクッとして、紅くなる、蒼さん。
可愛いなぁ。
「はぁ、よかったぁ」
僕は、思わず笑ってしまう。
「何が?」
「蒼さんに嫌われてなくて、もうあんな思いしたくない」
ぎゅと蒼さんに抱きつく。
「ほんとにごめん」
蒼さんも抱きしめ返してくれる。
「でも、嬉しい」
「何がですか?」
「直人が俺のためにあんな必死になってくれて」
「え?いつだって僕だけヒヤヒヤしてるし必死ですよ。蒼さん誰にも取られたくないのに、蒼さんむちゃくちゃモテるし、」
「いや、俺なんか薫にも嫉妬してるからね」
「僕だって田中さんに嫉妬してますよ」
プッ
二人して笑ってしまう。
「薫に怒られそうだから、内緒な?」
「はい。散々世話になってるのに(笑)」
田中さんはそんなことは、とっくに知ってるし、なんなら直人を使って蒼さんをおもちゃにしてるなんてことは、僕たちは知る由もないのでした。
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