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「取りあえず乾杯」
少しおしゃれなバーのカウンターで、僕は田中さんとグラスを合わせた。
少しの間、仕事やホテルの話をしていたけれど、
突然
「蒼となんかあったんでしょ?」
と聞かれてドキッとする。
「い いや いたって普通のお付き合いを…」
「日置君はともかくさぁ 蒼のあのへこみ方は尋常じゃないから」
「え?」間宮さん普段と変わらないのに…。もしかしてちょっとした変化も、田中さんはきづけちゃうのかな?
「まぁ そんなかっこ悪い姿、表には見せないんだけど」
と、僕の心を見透かしたように田中さんが続ける。
「たまたま見ちゃったんだよね。残業した日に」
そういうと、田中さんは自分が見た間宮さんの様子を話してくれた。
夜の自販機の陰で、携帯を眺めていた間宮さん。視力が異様にいい田中さんは、その画面に僕の名前と番号が遠目に見えたという。
そして、田中さんに気づかないまま間宮さんは、マリアナ海溝よりも深いため息をついていたんだとか。
「もしかして、日置君となんかあったかなぁと思ったけど、会社では二人ともいつもと変わらないしさぁ。」
「特に、何もないんですけど」一瞬ごまかそうと思ったけど、こんなに真剣に悩んでくれてる田中さんに失礼かと思ったし、何より僕も他に相談できる人がいなかったから、田中さんに頼りたいっていう気持ちもあった。
「何もなさ過ぎて、なやんでるのか?」僕が言いよどんでいると、田中さんが突然の考察を展開してきた。
「蒼も奥手だからなぁ」田中さんは、僕に視線を移して
「日置君まさかのどうて…」と言いかけた。
「違います。」慌てて遮った。
「だよね。」
少し沈黙があった。
そこで僕は思い切って、聞いてみる。
「あのぉ フツーの恋人同士って、どのくらいでその…するものなんでしょうか?」
一瞬の沈黙の後
「は?」と田中さんの声が少し大きく響いた。
「あ 声でかいですよ。すいませんこんなこと聞いて。…」
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