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「日置君、仕事なれてきた?」 「あぁ はいまぁ…」 休憩室で声をかけてくれたスタッフさんに、あいまいな笑顔で答える。 僕、日置(ひおき) 直人(なおと)は4月からここ、“深笹(みささ)ホテル“で、広報として働いている。 以前は広告代理店で働いていた。 しかし、ホワイトとは言えない職場環境に、限界を感じていた。 そこにたまたま大学の先輩である菰田(こもだ)さんが、声をかけてきてくれた。 「うちのホテル、今新規開拓のために、広報に力入れてるんだ。よかったらお前の力貸してくれないか?」 その言葉に、自分の力を試してみるのにもいいチャンスと感じた俺は、ありがたく引っ張り上げてもらったのだ。 もともと旅行も好きだったし、ホテルの仕事に興味もあった。転職前に、一度見学に訪れたときに、どこをとってもスタッフさんたちが、活き活きとしていて、"いい職場"なんだと十分にわかった。広報課に雇ってもらったんだけど、 男手の少ない職場では、パンフレット作製や、営業の同伴のほかにも、お手伝いできることは割とあって、重宝されているようで、やりがいを感じている。 「それ終わったらお茶にしましょう。」 いい(かお)りをさせながら、フロントチーフの間宮(まみや) (あお)さんが、コーヒーをおとしている。 「はーい」 休憩室付近にいた何人かが、返事をする。 間宮さんが来るだけで、休憩室の空気が変わるのがわかる。 間宮さんは女性スタッフだけでなく、男性スタッフからも好感度が高い。 真面目できりっとしてるのに固くなくて、柔らかい笑顔は、"フロントの華" と言われるほど。リピーターさんからの人気もすごい。ホテルでの仕事に緊張していた僕のことも、間宮さんはとても気にかけてくれて、いろいろなことをほんとに丁寧に教えてくれた。 前に男性スタッフさんが話してたけど、 「あれだけの見た目で、あの性格。間宮さんには勝てる気がしない」というのはわかる気がする。同じ人を好きになったら、悲劇でしかない。 実際、憧れだけじゃない女性スタッフもいるんじゃないかな?『彼女がいない』となれば、ついつい期待してしまうのも無理はない。
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