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「あの…」
ホテルのロビー。ポスターを張りながら横目で、蒼さんを見ていたら、お客様に話しかけられているのが見えた。
「はい」ホテルマンの顔をした蒼さんは、やっぱり素敵だ。
「写真撮ってもらえますか?」若い女性2人組のお客様だった。
「かしこまりました。」そう言って、お客様からスマホを受け取ろうとする蒼さんに、お客様は
「いえ、あの間宮さんと取りたいんです。」と、胸のネームを見て、照れくさそうに言う。
あぁ、わかってるよ。わかってたけどやっぱり目の前で見るといいもんじゃない。でも彼女たちの気持ちもわかってしまう。こんな素敵な人と旅の思い出を作りたい—。
「僕、お撮りしましょうか?」ロビーにいるスタッフは僕一人だし、蒼さんが困らないように、さりげなくフォローする。
「あ いいんですか?おねがいします。」
戸惑う蒼さんにお構いなく、女性たちは蒼さんの両脇に立ち、
僕はスマホを構える。
「じゃ 取りますね。はいっ!」
ピポン♪
「念のためもう一枚…間宮さん笑顔固いですよ。」
「あ そうかな…」
「きれいな方に囲まれて、緊張してます?リラックスリラックス」と言ってやる。両わきの女性がくすくすっと笑う。
「じゃ行きまーす。はいっ!」
ピポン♪
「はい。確認してくださいね。」
そういうと、お客様にスマホを返す。
彼女たちは確認した後。
「ありごとうございます」と言ってロビーを後にした。
「ああいうの困るよなぁ」蒼さんがそっとつぶやく。
「なんで?」わかってる。蒼さん奥手だし、はずかしんだよね?
「俺、有名人じゃないし…」そう言っていつもの笑顔を見せる。
「でも、直人じゃなくてよかった。」
「え?」
「俺なら、あんなに冷静にシャッター切る自信ない。」
「な 何それ」
僕だって、冷静な気持ちでなんかいられない。
ほんとは、右の女性がちょっと近くない?とか、左の人蒼さんのこと見過ぎ、とか思ってた。でも、『この人は僕の恋人だから!』って優越感に浸る努力をして、余裕そうにしてただけ。
「まぁこれもサービス料に含まれてるってことです。」
ポンポンと不意に頭をたたかれる。
「生意気言いやがって。」
後日ホテルの間宮様宛の封筒には、先日のお客様の写真が2枚入っていた。
1枚は、僕がとったもの。
もう一枚は—蒼さんが僕の頭を軽くたたいているもの。
「あらぁ いい顔しちゃって」
覗き込んできた田中さんがにっこりしながら言った。
「あぁ…」
そう言った蒼さんもとてもうれしそうだ。
部屋に飾ろう…そう思った。思いがけない1枚。
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