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♪ピロン スマホがメッセージを知らせる。 #直人、今家? 蒼さんだ。 #はい・お疲れ様です。 すぐに返信する。 #今薫と飯食い行くけど一緒にどう? #行きます! 我ながら、しっぽ振ってる自分が悲しい(笑)。 地元民が多い居酒屋風のお店で待ち合わせる。 「あ 来た来た」 暖簾をくぐって、ドアをけると、田中さんが僕を見つけておいでおいでする。 やっぱりこの人にとって、僕はペットなのだろうか?と考えながら、近寄る。 4人掛けのテーブルの、蒼さんの横に座る。 「あぁーあ、私のかわいい直君も、今じゃ蒼の従順な犬だねぇ」 とか言いながら、田中さんが僕の頭をポンってたたく。 「もぉ やめて下さいよぉ」 「わかってるなら気安く触るな」 と、蒼さんが僕の頭から田中さんの手をどける。 「あんまり独占してると、嫌われるよ」 今日はなんだかご機嫌な田中さん。 『ねぇ』と僕に同意を求めるように、にやっと笑う。 「田中さん、今日はかなりご機嫌ですね?」 僕は、軽くあしらって、つぶやく。 田中さんとは対照的に、蒼さんは何となくぶすっとしている。 「直君は小悪魔だねぇ」そんな蒼さんを見てから、田中さんが言う。 「え?僕ですか?」いやいや、小悪魔要素どこにもないんだけど。 「いや、直君が悪いんじゃなくて、蒼が嫉妬深いだけかぁ」 いやマジで、田中さんなんでそんなたのしそうなの? こういう時って、たいてい僕がらみで田中さんがあおさんをからかってるパターンだよね。 けど、今日は思い当たる節はないし…。 田中さんがあおさんをジーっと見ている。 居心地悪そうに、ちょっとバツが悪そうに、蒼さんは田中さんの視線を受け止めている。 「…あのさ、直人。」 その視線に押されるようにして、蒼さんはぼそっと声を出す。 蒼さんらしくない歯切れの悪い感じ。 「はい…」僕はとりあえずコーラを注文して、蒼さんに向き直る。 「今日のさぁ、あのお客様…。」 今日のお客様…。!あぁ三沢さん。と一人納得する。 「あのさぁ、あの、…」 「あぁ もうあの人とはどんな関係かって聞きたい!」 歯切れの悪い蒼さんにしびれを切らして、田中さんが僕に迫る。 その圧にちょっと押されて 「…!いぇ!」と変な声が出てしまう。 そして、田中さんの質問に、え?となる。 「元カノ?それとも告白でもされた?だってさぁ、やめた人間を次の職場まで調べて追ってくるとか普通じゃないでしょ?」 そういっきに聞いてくる田中さんに 「い、いや別に普通に、指導係だっただけで…。」 そう言いながら、蒼さんの顔をうかがう。 「えぇ 何を指導してたのさぁ 仕事?いやアフター5も?手取り足取りかよ!」 いやいや、田中さんの妄想とまれ! そして、なぜ蒼さんが照れてるんだよ! 「いや普通に、大学生のバイトの一人ですよ。マジで」 信じてください。 ん?でもこれってまさか…。 今の状況を一瞬にして整理する。 田中さんの言いたいことは、つまり「僕と三沢さんの関係」。 で、それは田中さんが蒼さんの代わりに聞いてる。 ってことはつまり、僕は蒼さんに三沢さんとの関係を疑われている。 いうなれば、蒼さんが僕と三沢さんの関係に嫉妬している? え?これってちょっとうれしいかも。 だって、蒼さんがやきもちやいてるってことでしょ? 思わずちょっとにやけてしまう。 「なおと!何笑ってんの。いやらしい」 ふと田中さんに言われて我に返る。 「わ 笑ってないですよ!」 ちょっとむきになてしまう。 ふふ…。そんな僕たちを見て蒼さんが笑う。 いつもの余裕のある蒼さんだ。かっこいい…。 「もう、心配して損したわ」 今度は田中さんが、僕らを見て笑う。 「なんか、やきもち焼いたり嫉妬したりする蒼って貴重だから、ちょっとおもしろかった。」 と田中さんがビールをあおる。 「…」 いや、蒼さんかわいいか!ちょっと照れて目を伏せるしぐさも、ぐっとくる。
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