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「はぁ」 盛大にため息をつく田中さん。 「薫、悪いなありがとう」 いつものスナックのカウンターで、蒼さんは田中さんにハイボールをごちそうしていた。 「かわいい直君のためだもん。使える色気(もの)は全部使うわよ」 何のために女でいると思うのよ。と息巻いている。 田中さんに本気出されたら、僕も蒼さんの彼女の座は危ういんじゃないかと思ってしまった。絶対に勝てる気はしない。 「なりたくてなってる薫には、女子が勝つのは難しいかもな」 そんなふうに蒼さんは笑うから、僕は思わずじっと蒼さんを見てしまう。 「直人は別格」、そんな僕に気づいてそう言って頭をなでてくれる。 結局嫉妬は蒼さんより僕のほうが板についてしまっている。 「でも、驚いたわよ。」田中さんは僕の顔をじっと見て、 「あんなかわいい子に思われるなんて、直君も隅に置けないわね」 と笑った。 「蒼の心配の種が増えて、私は面白いけどぉ」そう言ってケタケタと豪快に笑った。 翌日、三沢さんたちはチェックアウトする予定だなぁ、とか思っていたら、フロントから内線がかかってきた。 「はい広報部 日置です。」 「あっ日置さんお忙しいところ申し訳ないのですが、三沢様というお客様が、フロントでお待ちなんですけど、お越しいただけますか?」 フロントのスタッフさんが、ちょっと困った声で聞いてくる。 三沢さんかぁ…。昨日の今日だから会いづらいなぁ。でも、フロントに迷惑かけられない。 「わかりました」 と言ってフロントに急ぐ。 フロントに顔を出すと、すぐに三沢さんが笑顔で駆け寄ってくる。 今日はまた、ちょっと露出高めだなぁ。 「おはようございます。」 一応笑顔を向けて、挨拶する。 「ご利用ありがとうございました。ゆっくりお過ごしいただけましたか?」 「温泉も、食事もとっても良かったですぅ」 三沢さんはまた上目遣いで、はなしかけてくる。 この人、まだ僕のこと狙ってるのかなぁ。 “田中さん彼女作戦”、効果あったと思ったのに‥。 やたらと距離を詰めてくるから、思わず後ずさってしまう。 「そ それは良かったです。」 できる限りの笑顔で答える。 「私また泊まりに来ますね」 そう言って、さりげなく僕の手に触れる。 なぜかゾワッとしてしまう。
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