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「この前のはお芝居です。」
さらに驚いた顔をする三沢さんにかまわず続ける。
「でも僕にパートナーがいるのは本当です。」
「そんな…」
「田中さんは、僕のパートナーも僕の性格も知っているので、やんわりと三沢さんのお誘いを断るお手伝いをしてくれたんです。でもそのせいで巻き込んじゃいました。」
そこは反省しなきゃ。
「私も、その場しのぎとはいえ嘘をついて申し訳なかったわ、ごめんなさい。」
田中さんも三沢さんに謝る。
「じゃじゃぁ誰なのよ!」
「それは三沢さんには教えられませんが、僕にとってはとっても大切な人なので、三沢さんの気持ちは大変うれしいのですが、お応えすることはできません。ごめんなさい」
頭を下げる僕を呆然と眺めている。
「三沢さん、あなたはどうして僕を好きになってくれたんですか?」
ちょっと興味がある。一緒に仕事していた時は、そんな素振り一回も見せたことなかったのに。
三沢さんは何も答えない。
「誰ですか!誰!」なんだか取り乱し始めた三沢さん。
「落ち着いて、三沢さん。」
田中さんの問いかけにも答えず、泣きそうな、複雑な表情で、じっと僕を見ている三沢さん。
「だって、ぜったい私のこと好きじゃん。すきでしょ?」
鬼気迫る感じで怖い。
「意味ないじゃん、髪型も服装もこの女の真似したのにぃ!」
もしや、イメチェンは田中さんに寄せたってこと?
そこまでして、僕にこだわるわけって何?
「なんで僕なの?」もう一度聞いてみる。
「だって、日置さん私のことむちゃくちゃ意識してたじゃん。」
「え?」
「特別かわいがってくれてたでしょ?」
涙がぽろっと落ちた。
なんかドラマでも見ている気分だ。
「すごい切ない目で私のこと見てたじゃん。」
いや…。記憶にないんだが…。
「日置君ほんとなの?」
なんだか田中さんにも問い詰められる。
僕は首を横に振る。
「バイトのことはみんな同じようにしてたつもりだけど…。」
ほんといったいどこにそんなことを感じる要素があったんだろう?
「だって、だってっコーヒーごちそうしてくれたり、仕事フォローしてくれたり、笑いかけてくれたり…」
え?
「いやいやそれみんなにやってたよね?」
「あぁ、そういうこと…。」
田中さんは妙に納得した感じで、うなずいた。
ぼくはいまだにどうしていいかわからないでいる。
「三沢さん、きっと日置君みたいなタイプは初めてだったんじゃない?」
「どういうことですか?」
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