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「日置君は、誰にでも笑顔で、丁寧に接するところあるじゃない?」 「ま、まぁたまに言われます。」 「そして、三沢さんはきっとそれをあなたの自分への好意だと感じたのよ。確かに、日置君の人当たりの良さは筋金入りだもんね。」 「いや、そんなことは…。」 「こんなこと言ってごめんなさいね。でもきっと三沢さんはきっと恋愛体質なのよ」 そう言われて、三沢さんはちょっと硬い表情で田中さんをにらむ。 「きっともてるだろうから、引く手あまたなんでしょうけど、日置君みたいに、好意を向けてるのに告白もましてや話しかけても来ない、しかもこんな純真そうな男は初めてだったんじゃない?」 田中さんの言葉に、三沢さんはまだキッっときつい顔をしたままだ。 「だから、固執してしまった。って感じかな?」 そうなの?そんなことで? 「だって…。日置さんほかの子にも人気あったし…。」 ぼそっとつぶやく三沢さん。 「ステータスってこと?」田中さんがちょっと眉間にしわを寄せている。 「…」うつむいている三沢さん。 沈黙…。 そんな空気を砕く声が突然僕たちの席に響く 「直人…。」 蒼さんが僕たちのボックス席に顔を出す。 「あ 蒼さん」 「蒼」 僕と田中さんの声が重なる。 「よかった…。柴野さんに聞いて…。」 あぁ、今日はお休みだったのに、ホテルに来たんだ。 このタイミングで…ヒーローかよ。 「あ、先日はありがとうございました。」 仕事モードの顔に一瞬戻った蒼さんが、三沢さんに頭を下げる。 「あの、三沢様。日置は…、直人は、三沢様には譲れません。」 …!はぁ?何言ってんの蒼さん。 「ちょ、ちょっと蒼!」 田中さんも相当焦っている。そりゃそうだ。 きっとカミングアウトするつもりだろう。せっかく田中さんが犠牲になってくれたのに! 「直人は、俺にとって大事な人なので、申し訳ないが、これだけはご理解いただきたい」 深々と頭を下げる蒼さん。 落胆する僕と田中さん。 「え…」 呆然とする三沢さん。 「あ、あの三沢さん、あの」 「あんたゲイなの?」 へ? 「じゃぁ初めから女は無理ってこと?」 急に顔を真っ赤にして僕をにらむ三沢さん。 「い、いやそういうわけじゃ…」 「ふざけんなよ!もてあそんでたのかよ!キモイなホモが!」 !えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 「なんとでも言ってください。」 なぜか蒼さんが答える。 「ただこのことで、直人に何かしようというならやめたほうがいい。私が全力で守る。そのためなら何でもしますから」 しかもさらっと、恥ずかしいことを…。 お店がすいてる時間でよかった、と冷静になってしまう。 つぎの瞬間 ばしゃ! 運ばれてきていたアイスコーヒーが、氷ごと僕に降りかかってきた。 「バカにしないでよ!」 何が、どう三沢さんに届いたのか、どんな感情なのかわからないまま。 僕に怒号を浴びせた後、僕たち三人をにらみつけて、三沢さんは帰っていった。 ちょっと唖然として、時間がとまってしまう。 「直君大丈夫」 一番最初に動けたのは田中さんだった。 すぐにお店の人にタオルをもらって、テーブルを汚したことを詫びたりしていた。 「直人」 蒼さんも僕を拭いてくれている。 僕はしばらくどうすることもできないままだった。
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