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暑気払いの飲み会。 相変わらず、蒼さんと田中さんはなんだかんだと張り合ってじゃれあっている。 お酒が入るといつもこんな感じなんだよなぁ。 ちょっと聞いたことがある。 小学校の時は成績で、中学の時は体育祭の協議で、張り合ってたって話。 まぁよきライバルだったんだろうなぁ、と想像がつく。 「もう!そうやってまたクールぶって!」 「俺はお前と違って何倍飲んでも酔わないの!しかもお前より飲み方きれいだし」 まったく、子供の喧嘩かよ。 言い返せなくなった田中さんは、蒼さんの襟首をつかんで詰め寄る。 ただにらむだけでぐーのねも出ないんだけど。 なんか、…キス…しちゃいそう。 そう思ったら心臓がバクバクした。 僕たちは、田中さんの中身を知っている。 でもこれって周りから見たら少女漫画のワンシーンみたいで、このまま二人に恋心が芽生えて…。 変な想像してしまったところに追い打ちをかけられる。 「ヤダぁーなんかえになるうー。」 アルバイトで洗い場に入った女の子が、本気でキュンキュンした目で二人を見ている。 その言葉にはじかれたように、僕は立ち上がって、二人のそばに行く。 僕の蒼さんだよ、たとえ田中さんでも“絵になる”なんていやです。 「もう、田中さんも蒼さんも、子供みたいなじゃれあいしないでください」 そう言って、僕は田中さんを蒼さんから引きはがす。 僕に向き直った田中さんは、今度は僕にすがって、 「だって直君。こいつマジでかわいげないんだもん!私のことかわいくないって言ったんだよぉ」 そう言って泣きまねをする。 ”かわいくない”は禁句だよな。 よしよし、と田中さんを慰める僕を怒られた子犬みたいな目で見ている蒼さんに気づく。 「そりゃ、直君のほうが私よりかわいいのなんてわかってるわよぉ 彼の前でもついついいい女演じちゃうときもあるけど、私だってかわいいんだからぁ」 あぁ、こりゃ相当飲まされたな。蒼さんも悪い人だ。 「わかってますよ、田中さんかわいいですから」 そんなふうに田中さんをあやしているのを、菰田さんたちは、笑ってみている。 「もう、菰田さんも柴野さんも助けてくださいよ」 とつぶやくと 「上司の面倒は部下がきっちり見なきゃな」 とかわけわからんことを言ってくる。 「もう、田中さんもうお迎え呼びますか?」 今日は最初から蒼さんにあおられてハイピッチだったせいか、酔いが回るのも早い田中さん。 「うん、Lineするからスマホとって、」 そう言うと柴野さんがテーブルに出されたスマホを田中さんに渡す。 そして、柴野さんは僕に、 「ここは私が見るから、間宮さんとこどうぞ」と言ってくれる。 礼を言って、蒼さんの隣に腰掛ける。 「もう、何やってるんですか、飲ませすぎですよ」 「そんなことないよ。俺そんな飲ませてないし」 なんだかそっけない。 「直人は大丈夫?今日はずっと薫と営業まわってたし疲れたでしょ?」 そうでもないのかな?優しいいつもの蒼さんかも…。
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