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お昼休み、
休憩室に行くと、蒼さんの声がした。
その他にも、いくつかにぎやかな声が聞こえる。
夏休みだから、バイトの子が来ているんだった。
そう思いながら、休憩室のドアを開ける。
「お疲れ様です」
僕がそう言うと、バイトの女の子が二人こっちを見て
「あ お疲れ様でーす」
っと言ってきた。
でも、蒼さんはちらっとこっちを見て
「お疲れ」
とぼそっと言っただけだった。
いつもなら『お疲れ様、お昼頼んでる?』とか聞いてくるのに。
忙しくても、笑顔を向けてくれるのに。
何となくさみしくなる。
「聞いてくださいよ」
バイトの子が僕に話しかける。
「間宮さんてむちゃくちゃ面白いんですよ」
「若い子のトレンドとか知ってるし、まじ気さくで驚いた」
両手に女の子を従えて、蒼さんは営業用のスマイルを浮かべている。
「へ へぇ」
とあいまいに笑って返してしまう。
「SNSでばずってるダンス教えてるんですけど、覚えるのもむっちゃ早くて」
と、盛り上がってる彼女たちと、楽しそうに笑ってる蒼さんを見て、僕はちょっといたたまれなくなる。
冷蔵庫に入れてたパンとコーヒーを取って、広報室に戻って昼食を済ませた。
それからしばらく、館内で見かける蒼さんは、パートさんだったり、スタッフさんだったり、バイトの子だったり、とにかく女の人と楽しそうに話していた。
広報室に来ても田中さんと話す時はいつもより距離近めだった。
でも、家に帰れば普通に僕とも話す。
何だろうもやもやする。
1週間ぐらい休みがなくて忙しかったから、気にもしなかったけど、ふと気づいてしまう。
僕、飲み会の日以来、蒼さんに触ってない。
触れてないし、触れられてない。
思い立ったら、いてもたってもいられなくなってしまう。
営業帰りの車の中でちょっとそわそわしてしまう。
「日置君大丈夫?お手洗い?」
そんな様子の僕を見て、田中さんが心配そうに聞いてくる。
「あ,いえ大丈夫です。」
「会社まであと15分ぐらいだけど、コンビニもよれるよ?」
「いや、ほんとに平気です。」
むしろ、早く帰りたい。蒼さんのそばに行きたいんです。
「わかった、じゃぁよらないで帰社するわね。」
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