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ガチャ
扉の開く音。
あれ?ここ―
あぁ蒼さんちだ。
僕 寝ちゃって‥。
カチャ
リビングの扉が開く。
「直人?」
あぁ蒼さんの声‥っ!
「ご ごめんなさい勝手に押しかけて!」
一気に状況を考える。
もしかしたら避けられるようなことしたかもしれないのに、感情に任せて、蒼さんちに押しかけちゃったんだ。
どうしよう。
なんか言わなきゃ。
「あ あの ちょっと話したいなって、あの、いなかったから、合鍵で‥」
何言ってんだろう。全然まとまってない。
あたふたしていると、ピトッと僕の頬に蒼さんが、触れてすぐに包み込まれる。
ごちゃだった僕の気持ちがすっと消えて、ただ一つ『あぁ蒼さんの感触』という心地よさに占領されていく。
「直人ごめん、泣いてたの?」
親指が僕の涙の跡を辿っている。
「あ‥ ん‥んん」
また涙が流れてくる。こらえきれなくて嗚咽が漏れてしまう。恥ずかしい。
いい大人が。でも、会いたかったんだ触れたかったし、僕だけを見てほしい。
「直人‥」
蒼さんから僕の名前が繰り返し紡がれる。
それだけで満たされていく。
「会いたかった」同じ会社にいたし顔は合わせてたのに、こんなに近くにいたのに。
「そばにいたくて、触りたくて、笑ってほしくて」溢れ出る気持ちと涙でしゃくりあげながらで、子供みたいに、うまく伝えられてない。
「嫌なんです。嫌だ!僕だけに特別で、僕だけ‥、僕の‥だめです。他の子にあんな顔‥」
だめだ。こんなんじゃ、蒼さんに伝わらないし、嫌がられちゃう。
「直人、それって‥」
蒼さんはじっと俺を見つめている。
何を言われるのか、涙を拭うこともできず、身構えてしまう。
「嫉妬‥してるってこと?」
蒼さんに言われてはっとする。
そうだ、僕嫉妬してたんだ。
蒼さんを独り占めしたくて、でもそれって蒼さんを束縛しちゃうことだから、イケナイって思って―隠そうとしてた。
だからずっとモヤモヤしてたんだ。
蒼さんのこと信じてるのに、僕を裏切るんじゃないかと疑ってたんだ。
「‥ごめん ごめんなさい」
「え?」
「僕、蒼さんのこと独り占めしたくて、疑ったり追いかけたりして‥」
そう言うと、蒼さんは強く僕を抱きしめた。
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