田中の彼氏ですが

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初めて日置君に会ってから数日がたった。 俺は、仕事の都合でカオルの勤めるホテルのロビーにいた。 その日はロビー横のラウンジに間宮(アイツ)がいた。 完璧なほどに制服を着こなして、 立ち振る舞いも表情も完璧だ。 カオルとは腐れ縁だというけれど、 ホントに間違いがなかったのか? と思ってしまうほどに絵にかいたような“いい男”だ。 もし、カオルと彼の間に何かあっても、 俺はその過去までは縛れない。 「あ、どうもいらっしゃいませ」 ロビーを通り過ぎるとき俺に気付いて、 そう頭を下げる間宮。 「どうも」 こちらも社会人の常識的に頭を下げる。 このホテルの人のほとんどは、 俺とカオルの関係は知っている。 それをどうこう思う人もいないらしい。 「今日はお仕事ですか?」 すがすがしいほどのさわやかな笑顔で聞かれる。 「えぇ」 「いつもありがとうございます」 間宮は俺のことなんて、 『同級生の彼氏』くらいにしか思ってないのかもしれない。 でも俺は間宮と対峙するとどうしても少し身構えてしまう。 「間宮さん」 そんな緊張感の中に、聞き覚えのある声が入ってくる。 「日置君」 そう、日置君が制服を着て現れたのだ。 制服に着られてる。 そう思ってちょっと笑ってしまう。 しかし、俺の目の前の男は違っていた。 俺はまだそれに気づいていない。 「あ、道也さん。すいませんお話し中でしたか?」 日置君は俺に気付いて頭を下げた後詫びてきた。 「こんにちは、日置君。大丈夫だよ」 俺はにこやかにそう答える。 そして初めてそんな俺たちを複雑な表情で見ている、 間宮の視線に気づいた。 !!!こいつのこんな顔初めて見たぞ。 どうしたんだ? その答えはすぐにわかる。 「もしかして田中さんと待ち合わせですか?」 間宮の視線も気にせず俺に話しかける日置君。 そんな日置君をじっと見つめる間宮。 まさか…。え?そうゆうこと?…なのか…。 「い、いや、仕事の待ち合わせだよ」 俺は、間宮の視線をちらちら気にしながら、日置君に答える。 「そうなんですね。スーツ姿も素敵ですね」 ニコニコの日置君とは対照的に、 間宮の空気は張りつめていく。 「日置君私に何か用事だったんじゃない?」 ピリピリの声のまま、でも驚くほど包み込むような視線を、 間宮が日置君に向けた。 やっぱりそうなのか? じゃあ、カオルが言ってた日置君の恋人って…。 「あ、はい。新しいインカム届いたんで確認お願いします」 「急ぎなの?」 「はい、もうすぐ使いたいんで」 日置君と話す間宮にちょっとしたいたずら心がわいてしまう。 「あ、もうクライアントがくるんで私はこれで失礼します」 と立ち上がる。 「引き止めてしまって申し訳ありません。 ごゆっくりお過ごしください」 そう言って頭を下げる間宮。 それにならって頭を下げた日置君。 その頭にポンッと手を置いて、 「またね日置君。カオルによろしくね」 と言った。 その瞬間—。 間宮の目が見開かれて、表情が引きつった。 ニヤリ。 思わず俺は意地の悪い笑みを浮かべてしまう。
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