田中の彼氏ですが

5/5

169人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
その夜。 俺はカオルの部屋でワインを飲んでいた。 「ただいまぁ」 俺の在宅を知っているカオルが帰ってくると、 バタバタと俺に向かってくる。 「おかえり」 「あんた、蒼に何したの?」 興奮気味にそう問いかけてくる。 「いや、…なんだろう」 わかっている。 でも、思い出すふりをする。 だって、俺は知らないことになっている。 間宮と日置君の関係を。 「なんかあったの?」 「"お前の彼氏何とかしろ"って、むちゃくちゃ不機嫌だったんだから」 おおぉ。 カオルのおもちゃは、ほんといい仕事してくれるんだな。 そう思ってほくそ笑む。 「何もしてないよ…。ただ…。」 そう言って俺はカオルに今日の出来事を話した。 話し終わるとカオルはちょっと笑って、 「なるほどね」と言った。 「そういうことなんだね」 俺の言葉にカオルはうなずく。 「それがね。やばいくらい沼ってるのよ」 カオルは面白そうに言う。 でも、 「相手が直君でよかった」 そう言った。 「どうして?」 「蒼は純粋だから、変な女に騙されなくてよかったなって」 カオルは遠い目をしてそう呟く。 「それに、直君の前だと人間らしくなるんだよね」 前に聞いたことがある。 面がいい分苦労することもあったって。 いいやつだけど、自分の感情は殺しがちだって。 カオルなりにやつのことを心配してたんだろう。 「間宮さんのことをそんなふうに言ってるカオルを見たら、 かなり嫉妬しちゃうな」 そう言うとガバッと俺の中に納まってくる。 「うれし」 俺の嫉妬すらも吸収していくカオルをぎゅっと抱きしめた。 「でも、蒼が嫉妬で取り乱すほど、私の彼氏もいい男なんだよね」 「え?」 「私も直君に嫉妬しそう」 そう言いながら俺の胸に顔をうずめるカオルを、 俺はまたゆっくりとじっくりと愛す。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

169人が本棚に入れています
本棚に追加