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でるタイミングを見計らうために、ちょっと壁からのぞいたら、たばこを消す間宮さんが見えた。そしてこちらに体を向けたので、なぜか僕は身をひるがえして、またお手洗いに戻る。そして、"今出ました"みたいな顔をして、お手洗いを出る。思った通りちょうど間宮さんと出くわす。
「あっ日置君。大丈夫?飲みすぎないでね。多分二次会もあるから」そう言ってほほ笑む間宮さんは、まったく酔ってないみたいだった。結構飲んでそうに見えたのに。お酒も強いのか。
「は はい。あのさっきはみんなの輪に入れてもらって、ありがとうございます。」間宮さんの『気づかい』にお礼を言う。
「いいんだよ。普通に俺が日置君のこと聞きたかっただけだし」そう言って、いたずらに笑うと、間宮さんはお手洗いに消えていった。
何人かが残って二次会に行くことになった。
間宮さんが行くから田中さんも一緒かと思ったのに
「かわいいわが子が待っているから」と言って帰ってしまった。
突っ込みたいことはいっぱいあるけどまずは
「田中さんてお子さんいらつしゃるんですか?」
「はは 、亀だよ亀」と間宮さんが笑った。
「変わってるでしょ?数あるペットの中から『カメ』を選んだんだよ」
へぇ 田中さんの意外な一面。
「餌あげてくるの忘れたんだって。まぁカメにあんだけ感情移入しちゃうとか、さすが田中さんだよね。」とほかの社員さんたちも教えてくれた。
「さみし?田中帰っちゃって?」と不意に耳元で間宮さんの声がしてドキッとする。いや逆に間宮さんはいいんですか?と思ってしまう。
「い いえ 」と一応答えておく。
二次会はスナックだった。行きつけの店だというだけあって、ママさんもとても気さくでいい人だった。僕のことも『ナオちゃん』と呼んでくれていた。その居心地の良さと、久しぶりの飲酒で僕はほどなくつぶれてしまった。情けない…。
曖昧な記憶の中で、間宮さんが僕を呼んでいるのが聞こえた。
「日置君 少し歩ける?」
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