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「日置君今日午後あいてる?」レストランの吉井さんが、広報室にやってきた。あの飲み会以降、スタッフさんたちとの距離は確実に縮まって、仕事もしやすくなった。声をかけてくれる人も多くなったけど、田中さんは、 「日置君は私の部下なんだからぁ」と時折ぼやいている。そう思ってもらえるのは素直にうれしい。その一方で、間宮さんとは何となくもやもやした関係が続いている。別にぎくしゃくしたりしてるわけじゃないし、今までとさほど変わりはないからいいんだけど、あの、あのキスはなんだったんだろう。さらに、田中さんとの関係も少しは気になっている。やきもちとかではない。けど田中さんと友達以上なら、なぜあんなこと僕にしてくるのか?とか… 「今日は午後私のお供で代理店との打ち合わせよ。」と僕の代わりに、田中さんが吉井さんに答える。珍しく履いている高いヒールがかつかつと音を立てる。 「じゃ 今借りてもいいですか?」吉井さんも引かない。 「いいよ。15分くらいなら。」田中さんが条件付きでオッケーを出す。 「よし、じゃ急ぎましょう」と僕は返事をしないままに、吉井さんに手を引かれて広報を後にする。 吉井さんのお願いは、レストラン前のディスプレイの確認だった。以前ちょっと手直しをしたら、その配置がレストランのスタッフさんに評判よかったみたいで、またお願いしたいとのことだった。 「今日エース代理店さんとの打ち合わせですか?」吉井さんに聞かれてうなずく。 「なんでわかったんですか?」不思議に思って尋ねる。 「田中さんが前にエースさんと打ち合わせしてきたとき『エースの営業みんな高いピンヒール履いてたぁ』って言ってたから」と言って吉井さんは笑った。 「ああ見えて田中さんて負けず嫌いだから、子供じゃないんだからって。突っ込みたくなるよね。」とおかしそうに言った。 「はは…なんかわかる気がします。田中さんってそういうかわいいとこありますよね。」  「田中さん喜ぶよ、かわいいって言われたら」 「そうですかねぇ」 「うん。田中さんが目指してるのは“かわいい女子”だからね。でもホラ、間宮さんにはいつも『かわいげない』って言われてるからへこんでるよね」 間宮さん…その名前についつい反応してしまう。 「あの…間宮さんと田中さんて、なんていうかその どういった関係なんでしょうか?」 何となくズバッと聞けない。 「あれ?やっぱ日置君も田中さんねらいですか?」 勘違いされてしまってちょっと焦る。 「あ いや そういうわけじゃないんですけど、なんていうか…」 はっきりしない僕に気を遣ったのか吉井さんは 「まぁ そのうちいろいろわかってくると思うけど、たぶん日置君が思ってるような関係じゃないと思うよ。」と言ってくれた。そして時計を見て、 「あ もう時間ですね。お迎えが来る前に、日置君を戻さないと」とお茶目に笑う吉井さん。 「田中さんほんとに、日置君のことかわいがってるもんね」 「いやなんかマジのペットですよね…」と僕も愛想笑いをする。 広報に戻りながら、思う。田中さんにかわいがってもらえるのはうれしいけど、そのせいで間宮さんとぎくしゃくするのはやだなぁ。はっ!俺ここんとこ間宮さんのことばっかり考えてる。あんなことがあったからって、ちょっとストーカーみたいじゃん。やばっ!気を付けよう。
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