03.田山圭太、田山さんのパシリになる

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03.田山圭太、田山さんのパシリになる

 ◇ ◇ ◇  田山偽者さんが恐喝未遂を起こして数日が経った。  相変わらず犯人は見つかっていないし、連日のように恐喝未遂が続いたせいで、俺の評判は一年の間ですこぶる悪い。田山圭太という不良に目を付けられたら、荒川庸一と一緒に焼きを入れられる、と囁かれるようになった。  もっぱらその原因を作ったのはヨウのせいだ。  あいつが一年の教室を脅し回っていなければ、ここまで噂されることはなかったような……。  くそう、正直恐喝未遂よりも、ヨウの取った行動のせいで、俺の評判が地の底に落ちた気がする。なんてこったい、敵は身内にいたか!  冗談はさておき、俺の評判は本当に悪い。生徒にも教師にも評判が悪い。  あまりの悪さに地味友であり、よくチームに手を貸してくれる利二が頻繁に心配を寄せてくるほどだ。 「田山。お前、大丈夫なのか? 問題児と称されている荒川や貫名より悪目立ちしているが」 「世の中おかしいよな。俺なあんにも悪いことしていないのに、悪目立ちしているんだから」 「新入生が怯えているらしいぞ。二年生の田山圭太に遭ったらどうしようってな」 「そりゃ半分以上はヨウのせいだっつーの。あいつが一年の教室を脅して回ったもんだから……ただ、ヨウのおかげでこの二日は恐喝の話が出ていないんだ」  噂を聞いたことで荒川庸一が動き出した、と輩の耳に入ったのか、この二日は恐喝未遂の話も聞かないし、前橋に呼び出されることもなかった。  ヨウを敵に回すのは、さすがにまずいと思ったのかな。  そう思って永久におとなしくしてくれたら、俺的には嬉しいんだけど……。 「新入生に教えてやりたいよ。お前がどれだけ調子ノリかを。一度でも話せば、田山の悪評なんて笑い話になるんだがな」  さり気なく庇ってくれる利二の気持ちが嬉しい。  お前っていつもそうだよな。俺の味方になってくれる。 「べつにいいさ。周りに悪く言われても、お前が俺の話し相手になってくれるんだからさ」  すると利二は照れくさくなったのか、「相談事は一回百円な」と、おどけてきた。  思わず、声を上げて笑ってしまう。おいおいおい友情に金を取るのかよ。悪目立ちしている俺より、ずっと悪いことしているぞお前。  話は戻して、俺の名前を騙っている不良の情報は未だに掴めていない。  弥生はもちろんタコ沢や利二が動いてくれているんだけど、荒川庸一の行動を耳にしたことで、輩が鳴りを潜めてしまった。  新入生の動きはモトやキヨタが目を光らせてくれているんだけど、やっぱり有力な情報はなにも掴めていない。不良っぽい奴らの目星はつけているみたいで、何人かは早々に学校をふけているんだとか。  ただそれが誰なのか明確には分かっていないらしい。まあ、ウチの学校はクラスも多いし、それなりに学科も多いからな。あぶり出すのには時間が掛かるだろう。  輩の動きを封じた同時に、俺達も動けなくなってしまっているのが今の状況だ。犯人探しもくそもあったもんじゃない。  犯人がおとなしくなったことで、恐喝未遂がうやむやになってくれたらいいんだけどな。  なんて思ったら、事件が起きた、起きてしまった、とんでもない事件が起きた! 『――お前がまだ教室に来てねえって珍しいな。どうした? ケイ? ケーイ?』  その日、朝からヨウの電話で起きた俺は目覚まし時計を睨んで、千行の涙ならぬ千行の汗を流していた。  なるほど。九時か。そうか九時ね。今日は何曜日? 火曜日? あらそう休日でもなんでもない平日ね。まじか。まじなのか。  どうしよう九時だよ?! 遅刻じゃんか!  なんで母さん起こしてくれなかったんだ?! あ、今日はパート早番って言っていたような……目覚まし掛けるの忘れてた俺が悪いなこれは! 「やばいやばいやばい。昨日遅くまで映画を観るんじゃなかった! 靴下どこだ! シャツっ、ああもうネクタイがねえ! 名札プレートどっかいった! 携帯もねえ! もう知らん!」 『携帯はお前が持ってる。いま俺と話しているだろうが。落ち着けって』 「落ち着けるかよ遅刻だぞ遅刻! 最悪だ!」 『よく授業をサボる男が遅刻くらいで何ビビってるんだよ』  へらへらとした笑い声が聞こえるけど、うるせえよい! 授業をサボるにも遅刻するにも心の準備が必要なんだって俺は! 変なところで真面目くんだよ悪いかボケぇ! 「よ、ヨウ、今から何の授業だっけ?」 『長谷、今から何の授業だ? んー分かった。現代文Bだってよ』  現代文Bか。  担当は新井だからまだ大丈夫だな。  そこまで怖くないおばあちゃん教師だから、多少遅れても見逃してくれるはず。とはいえ、今からフルスピードでチャリを漕いでも、一限目には間に合わないかも。  二時限目に出られるよう時間を調節して登校しようかな。バタバタ行っても良いことないし、チャリの運転誤って事故るかもしれないし。  ヨウにその旨を伝えて電話を切った後、俺は急いで身支度を済ませた。ネクタイは探し出せたけど名札プレートは消えたまま。帰って来てから探すことにしよう。そんなに重要アイテムじゃない。  残念なことに朝食を食べる余裕はないから、後で売店で何か買おう。  とほほ、まさか遅刻するなんて思わなかったな。  ここ数日、田山偽者さんのせいで良いことがなかったから、現実逃避がしたくてジャッキーチェンの映画を二本も観たのが仇になったよ。だってしょうがないじゃんか。ジャッキーチェンの映画は眠気も吹っ飛ぶくらい面白いんだからさ。
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