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◇
(本来不良って多分、こんな風に横暴なんだろうな)
出席する予定だった二時限目をサボってしまった俺は、矢島 俊輔達の鞄持ちをしながら三人の後ろを歩いていた。向かう先は学校近くのコンビニらしい。少しでも遅れると、取り巻きの川瀬 千草と谷 渚がきゃんきゃん鳴いてくるから、なるべく歩調は早めに早めに。
初対面の人間に鞄持ちをさせるなんて本当に横暴だよな。ヨウはこんなことしなかったぜ。鬼畜不良と呼ばれているワタルさんだって、俺に鞄持ちなんてさせたことないのに、ひでぇ奴らだな。
ただ運が良いのか悪いのか、田山偽者さんの名前を掴むことはできた。
鞄の色を見たところ矢島は三年生、川瀬と谷は一年生か。後で弥生に連絡しておこう。
「おい山田」
「なんっすか」
先を歩く矢島が振り返ってくる。
山田は俺のことだ。さすがに馬鹿正直に名前を教えたら、俺の立場が危うくなるから適当に『山田健太』と名乗った。
山田だったら二学年に複数いるし、咄嗟に出てきた『山田』が健太の名前だった。友達の名前を借りることになるんて……悪い健太。名乗りやすかったんだ。少しだけ騙らせてくれ。
「お前いくら持ってる?」
ははーん、これはあれだなあれ。飯を買いに行って来いってあれだな。
俺は歩きながら財布を取り出すと、「八百円ですかね」と、正直に答えた。
誤魔化したところで、殴られるのが関の山だろうしな。
とはいえ一昨日サイゼリアに行ったから、三人分の飯を買える金はない。小遣いまでまだ日があるし、どうにか八百円で乗り切ろうと思ったんだけど……いやだってこんなことになると思わないじゃないか。
俺の財布事情を聞くや、「しょぼい」と川瀬に呆れられ、「パシリにもならない」と谷がため息をついた。
すんませんね! これでも金がある方だと思っている人間なんですけど!
「今日はジュースで勘弁してやるから、今度から二千円は入れておけよ。お前は今日からあん達のパシリで、荒川の舎弟になってもらうんだからな」
ということで買って来い、とコンビニに着くや店を指さされた。
えええ、さっそくパシリ? まじで? しょーがないなもう……グズグズしていると怒鳴られそうだし。俺は三人分の鞄を矢島達の足元に置くと、飲みたい物を確認して、はい駆け足。
さっさと四人分の飲み物を買って戻った。
なんで四人分かって? そりゃ俺が朝ごはんを食べていないからだ! まじで何も食べてないんだぜ! 飲み物くらい許されるだろ! ついでに俺の金なんだから文句を言われる筋合いはない!
「はいどーぞ」
コーラを差し出すと、矢島から怪訝な顔をされた。
なんだよ。お前コーラって言ったじゃん。なにゼロコーラが良かったの? なら先に言ってくれ。
「山田、お前……全然動揺していないな。もっと怯えられると思っていたんだが」
「まあ、人生諦めも大事なので」
動揺? めっちゃしているよ!
なんで俺は「荒川の舎弟を演じる生徒を演じないといけない」のか!
もっと詳しく言えば「田山偽者さんを演じる山田健太の正体は田山圭太で荒川の舎弟なのだ!」と、言っている本人も訳分からん状態に大混乱しているよ!
おかげで今日から不良のパシリだとか、鞄持ちだとか言われてもあんまり恐怖を感じないぜ! 感じる余裕がないのが本音だ!
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