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「なんっつーかお前、枯れてンな」
川瀬が同情した目でこっちを見てくるけど、誰のせいでこうなっていると思ってるんだ。畜生め。
「諦めないと、世の中上手く渡れないこともありますので。ああ、小遣いの件に関しては俺じゃどうにもならないんで悪しからず」
毎回二千円なんて財布に入れられるか。こちとら金持ちじゃねーっつーの!
「潔くパシリになっても、仕方ないってことか」
「解放してくれるなら喜んで逃げますけど……矢島さん、俺を逃がしてはくれないでしょう?」
俺は矢島の手のひらにコーラを置くと、自分のコーラを飲むために蓋を開ける。
(んー自分でも驚きだけど、やっぱあんまり怖くないかな。こいつら)
まあ怖くないのはうそだけど、俺はもっと怖い不良たちを知っているからな。
これでもヨウの舎弟をしているから、それなりに成長はしていると思う。
それこそ前のように不良を見るだけで度肝を抜かれる、ということは少なくなった。少しだけ怖いな、嫌だな、と思うことはあれど露骨にビビることはない。
経験上、地元を牛耳っていた五十嵐や、未だに俺をいじめてくるヨウの宿敵・日賀野大和の方が数百倍怖いことを知っている。
仮に柄の悪い兄ちゃんと喧嘩するってなったら、抵抗もあるし、内心すっごく泣くと思うけど、ビビる回数はあの頃よりも少なくなっていると思う。
こんなんでビビっていたら、ヨウの舎弟なんて務まらないしな……。
最初の頃なんて毎度のようにビビって寿命が縮みまくっていたと思うから、たぶん現在の俺の寿命はマイナスだと思うね! 責任取れよヨウ!
(さてと、これからどうしようかねえ)
コーラを飲みながら考える。
とりあえず山田と名乗って、矢島たちのパシリになったものの、俺はどうやって田山圭太を演じればいいのか。阿呆だけど、俺はいま真剣に悩んでいる。田山圭太ってどうやって演じればいいのよ。俺は俺がわかんねえ! いつも俺ってどんなかんじ? こんなかんじ? 内心はノリツッコミうるせえ? そら俺しか分からん。ああもう、難しいな田山圭太を演じる田山圭太って!
隙を見て逃げ出すことができるのが一番だろうけど、逃げるからにはそれなりの収穫もほしい。
(収穫ないと何にもしていない俺は停学処分。ヨウやワタルさんも疑われたままになっちまう。それは嫌だし、なにより)
野放しにしておくと、田山偽者さんが暴走するかもしれないもんな。
一番知りたいのは田山偽者さんの目的だけど……。
「おい山田。呑気にコーラを飲んでいる場合じゃないぞ。今から恐喝しに行くんだからな」
「そうだ山田。あんちゃんのために、恐喝をちゃんと成功させろよ」
ばか、危うくコーラを噴き出しそうになっただろう!
こんな真っ昼間からコンビニの前で恐喝しに行くなんて……お前らさ。「ちょっとカラオケに行こうぜ」みたいなノリでいうんじゃない。全然良いことじゃないんだからな!
川瀬と谷を交互に見やり、矢島に正気ですか、の意味合いを込めて視線を投げる。
すると彼奴は大真面目に恐喝しに行く、と言い切った。
「荒川を完膚なきまでに叩き潰す。そのためにはまず“足”を封じる必要がある。荒川の強みとも言われている“足”を封じてしまえば、あいつの弱点も多くなるはずだ。パシ、お前は荒川の噂を聞いたことがあるか?」
パシ……。
それってもしかしなくとも俺のことですかね?
まさかパシリのパシ、みたいなノリで付けました? べつにいいけどさ。
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