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「言われたの! 何度も、色んな人に。似合わないって。……らしくない、って……」
酷く悲しそうな顔で俯いている。ようやく理解した。彼女が何に縛られているのか。
「君は可愛いよ。誰が何て言おうと、可愛いし綺麗だ。僕だけがそう思ってるのかもしれない。でも、それで良くないかな? 僕の目にはそう映ってるんだから。僕は玲ちゃんが好きだよ」
「……だから嫌いなんだよ。そうやって、甘やかして」
ポツリと溢したけど僕には分かる。本当は嬉しいと思ってくれていることを。僕と目を合わせないことが何よりの証拠だ。
……可愛い。
「もう少し僕の彼女で居てくれないかな? 時間の無駄かもしれないけど、僕のわがまま聞いてくれない?」
「仕方ないですね」
ようやく目が合った。その目は少し潤んでいるようにも見える。なんとか繋ぎ止めることに成功した。
それからも今まで通りの付き合いが続いたが、少しずつ彼女に変化が見られた。
《おはよう。今日は暑いね。外回り、体調気をつけてね》
《おはようございます。関さんも気をつけて》
思わず顔が綻ぶ。
7月中旬。雲の切れ間から月が顔をのぞかせた。数個の一等星も煌めいている。
《今週末、夜に会えるかな? 玲ちゃんに見せたいものがあるんだ。帰りが遅くなりそうだから翌日予定がない日がいいと思うんだけど》
《空いてますよ。何ですか?》
《星を見に行こうかと思って》
僕の趣味である天体観測に誘ってみた。
《いいですよ。行きましょうか》
彼女はどんな反応をするのだろうか。
「——関さん、車持ってたんですね」
待ち合わせ場所で彼女を車に乗せると湖に向かって走らせた。この辺りで天体観測をするには適した場所だ。葉山はこの湖でよくバス釣りをするらしい。
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