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「そうなのかもしれない。でも、仮に結婚しても幸せにはならないと思うよ。女性を道具としてしか見てないような男と結婚して……。どうせ恋愛と結婚は別だとか言って浮気するよ」
「結婚して不貞行為をしたら慰謝料貰って別れるので大丈夫です。私は傷付かないし——」
「ちょ、ちょっと待って。慰謝料? 恋愛と結婚は別だって話じゃないの? 結婚をしても自由に恋愛はしていいって契約をするって話じゃなかった?」
私と関さんが言い合っていると慌てて間に入ってくる。
「何言ってるんですか? 不貞行為をしたら契約違反ってことで制裁を受けるのは社会通念上、当たり前ですよね。結婚ってそういうものでしょう?」
「そ、そうなんだ。なんか勘違いだったみたいだね。……関、悪かった。俺帰るよ」
ははっと笑いながらその場を後にした同期の男性。
……え。勘違い? あ、あぁ、そう。
少し、いや、かなりがっかりした。それに関さんからの視線が痛い。堪らず目を逸らすと「よかったね。時間の無駄にならなくて」と手を繋がれた。
「……」
返す言葉がない。そのまま黙って歩き出した。無言のまま駅に着き「気を付けてね」と見送ってくれる。
「はい、では」
あの人は結局何も言わなかった。私を咎めることもしなければ、自分の気持ちをぶつけることもしない。チラッと後ろを振り返るとまだ私を見ている。静かにただ佇んで……。
それからも何事もなかったかのように《おはよう。今日は暑くなりそうだね》とか《今日は残業だったよ。疲れたから早く寝るね。おやすみ》とか〈LINA〉を送ってくる。
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