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新しく注がれたカルーアミルクに口をつけ、今度は嬉しくなってきた。なんで、こんなに美味しいのか。僕は笑いながらカウンターに額をつけた。
そんな楽しさへ水を差すように、だれかが僕を揺さぶる。なんだと思い首をひねると、逢坂先生が見下ろしていた。
同情でもするような、ほとほと困り果てたような顔をしている。
どんな表情をしても、基礎が整っているやつは、格好よくしかならない。男の僕でも見惚れるくらいなんて羨ましすぎる。
神さまのバカヤロー。
僕だってそういう顔に生まれていたら、もっと生徒に慕われたかもしれないじゃないか。
でも、不思議と悔しい気持ちはない。ただただ、ないものねだりな自分がおかしくてしょうがなかった。
「俺、知らねえぞ」
土屋さんの声が聞こえた。
それもおかしくて、なんだか愉しくて、僕は笑いを止められなかった。
逢坂先生がぼそっと言う。
「やべえな」
「しかし、聞きしに勝るキャラだな。おい」
「てことで、そろそろ帰るわ。悪ぃけど、ツケにしといて。──渡辺」
逢坂先生が僕の肩を掴んだ。スツールから立たせようとする。
ここでまだ飲んでいたくて、僕はカウンターにしがみついた。やだやだと頭を振る。
さらに酔いが回ってきた。
「代行頼んでやるから」
「やだ。まだ飲む~」
「ああ?」
と、なぜか逢坂先生は凄んでいる。そして、顔を近づけてきた。
「いい加減にしろよ。……ったく、面倒くせえやつだな」
「つぐ、だからって前みたいに捨ててくなよ」
──捨てる?
それを聞いて、冗談じゃないと僕はしゃきっとした。したけど、すぐにぐでんとなった。
またおかしさが湧き上がる。
自分が変だという自覚はあるのに、それをうまくコントロールできない。
久しぶりの深酔いだった。そんな自分が、また面白くて仕方ない。
「捨てるかよ。休み明けには顔合わさなきゃいけねえんだから」
「おーさかせんせー」
「なんだよ。ほら、いいから立てって」
「僕、せんせーのうちへ行きたいでーす」
まだ飲みたい。この時間を終わらせたくない。
逢坂先生は「わかった」を繰り返しつつも、僕の体を無理やりドアへと向かわせる。
その力のものすごいこと。僕はもう逆らえず、自力でも歩いた。
お店を出るときに土屋さんへ一礼したら、つんのめってしまって、ついに逢坂先生に怒鳴られた。
それも、いまの僕には笑いの要素でしかない。逢坂先生にしがみついてケタケタ笑っていると、さっき言われた「捨てる」がよぎった。ちょこっと残った理性でなんとか正気を取り戻そうと踏ん張る。
踏ん張ったんだけど、そこからはよくわからなくなった。エレベーターらしきものに乗せられたところで、僕はとうとう意識をなくした。
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