ー手応えはありまくり

7/7
前へ
/56ページ
次へ
 新しく注がれたカルーアミルクに口をつけ、今度は嬉しくなってきた。なんで、こんなに美味しいのか。僕は笑いながらカウンターに額をつけた。  そんな楽しさへ水を差すように、だれかが僕を揺さぶる。なんだと思い首をひねると、逢坂先生が見下ろしていた。  同情でもするような、ほとほと困り果てたような顔をしている。  どんな表情をしても、基礎が整っているやつは、格好よくしかならない。男の僕でも見惚れるくらいなんて羨ましすぎる。  神さまのバカヤロー。  僕だってそういう顔に生まれていたら、もっと生徒に慕われたかもしれないじゃないか。  でも、不思議と悔しい気持ちはない。ただただ、ないものねだりな自分がおかしくてしょうがなかった。 「俺、知らねえぞ」  土屋さんの声が聞こえた。  それもおかしくて、なんだか愉しくて、僕は笑いを止められなかった。  逢坂先生がぼそっと言う。 「やべえな」 「しかし、聞きしに勝るキャラだな。おい」 「てことで、そろそろ帰るわ。悪ぃけど、ツケにしといて。──渡辺」  逢坂先生が僕の肩を掴んだ。スツールから立たせようとする。  ここでまだ飲んでいたくて、僕はカウンターにしがみついた。やだやだと頭を振る。  さらに酔いが回ってきた。 「代行頼んでやるから」 「やだ。まだ飲む~」 「ああ?」  と、なぜか逢坂先生は凄んでいる。そして、顔を近づけてきた。 「いい加減にしろよ。……ったく、面倒くせえやつだな」 「つぐ、だからって前みたいに捨ててくなよ」  ──捨てる?  それを聞いて、冗談じゃないと僕はしゃきっとした。したけど、すぐにぐでんとなった。  またおかしさが湧き上がる。  自分が変だという自覚はあるのに、それをうまくコントロールできない。  久しぶりの深酔いだった。そんな自分が、また面白くて仕方ない。 「捨てるかよ。休み明けには顔合わさなきゃいけねえんだから」 「おーさかせんせー」 「なんだよ。ほら、いいから立てって」 「僕、せんせーのうちへ行きたいでーす」  まだ飲みたい。この時間を終わらせたくない。  逢坂先生は「わかった」を繰り返しつつも、僕の体を無理やりドアへと向かわせる。  その力のものすごいこと。僕はもう逆らえず、自力でも歩いた。  お店を出るときに土屋さんへ一礼したら、つんのめってしまって、ついに逢坂先生に怒鳴られた。  それも、いまの僕には笑いの要素でしかない。逢坂先生にしがみついてケタケタ笑っていると、さっき言われた「捨てる」がよぎった。ちょこっと残った理性でなんとか正気を取り戻そうと踏ん張る。  踏ん張ったんだけど、そこからはよくわからなくなった。エレベーターらしきものに乗せられたところで、僕はとうとう意識をなくした。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

123人が本棚に入れています
本棚に追加