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台所と隣接したリビング、その真ん中に置かれたテーブルの上には艶のある包装紙に包まれた箱。
柴本はその前に陣取り、太短い指で包装紙のテープを剥がしに掛かっている。テンションが上がっているのを示して、ふさふさの巻き尾がふるふると小刻みに揺れる。とても分かりやすい。
ご飯の準備出来てるから、もう少しだけ待ってよ。わたしがそう言うと
「ん、分かった」
包装紙を破きかけた箱を、すごすごと未練が透けて見える手つきでテーブルに置き直す。本当に分かりやすい。
「で、どうしたんだ、これ?」
あなたに渡してくれと頼まれたと返すと、柴本は元々丸っこい目をさらに丸くして
「おれに? 何かあったっけ? 誰から?」
矢継ぎ早の質問に、今の仕事に関係のある人からだと答えると今度は首を傾げる。
「イノさんじゃねーよな、このチョイス。あのオッサンなら酒とかだろうし」
近所のスーパーの万引き対策係、それが今の柴本の仕事で、イノさんこと井上太はそこの店長だ。猪族の獣人で、親切な人柄が取り柄だけど、価値観が四半世紀くらい前のまま止まっているのが玉に瑕だ。
わたしが何か言うより先に、鼻の辺りの毛並みにわずかに皺を寄せながら、黒く濡れ光る鼻先で菓子箱の表面をなぞり始める。
「んー、香水か。女物だなこれ。それも人間が付けるヤツ。身なりに気をつかうタイプか」
柴本は嗅覚にすぐれた犬狼族のなかでも特に鼻が利くようで、人間であるわたしが気付かない匂いを器用に嗅ぎ分ける。今のように差出人不明の物品を送った人物の種族、性別、大まかな年齢、あるいは体格や健康状態などを推測するのは造作もないらしい。
一緒に暮らし始めて間もない頃には、いきなり鼻を突っ込んで匂いを嗅ぎ始める光景には驚いたものだ。けれども今では、もうすっかり慣れてしまっている。匂いを嗅ぐのは、彼らにしてみればごく当たり前の行為なのだ。
「女性で割と歳が高め。パートのおばちゃん達じゃねーのは確かだ。牧瀬さんならオフで付けてるかもだけど、もっとケバいの選びそうだしなあの人」
本人たちに聞かれたら文句のひとつも言われそうなことを口にしたのは聞かなかったことにしてあげよう。ちなみに、わたしは牧瀬さんがどんな人なのか全然知らない。
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