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 万引き対策に話を戻そう。    店内の巡回は柴本だけでなく、数名が交替で行っている。  陸上防衛隊の特殊部隊に籍を置いていた柴本といえど、彼の背丈より高い棚がずらりと並ぶ店内を、ひとりでくまなく見て回るのは難しい。さほど規模の大きくない店とはいえ、不特定多数が出入りするのだから尚更だ。 **********  見張りを始めて数日が過ぎた頃、怪しげな挙動や不審な匂い――人類を含めたあらゆる動物は感情で体臭が変わると柴本は言う――は何名か確認出来たものの、決定的な証拠は掴めずにいた。  そんなある日の午前中、怪しげな客を見張っていたところ、ふと別の客が柴本の目鼻に引っかかった。  70歳手前くらいの人間種の男性で、背丈は柴本より頭ひとつ分は高く、肩幅も広い。  白の割合の方が多い灰色の髪を整髪料でべったりと撫で付けて、服装は黒いジャージの上から仕立ての良いジャケットを羽織っていた。足にはサイズの合っていない女物の突っ掛けと、見るからにちぐはぐな格好だったという。  少し離れた場所から様子を見ていると、お菓子の棚のすぐ隣、酒のつまみの乾き物などを並べたコーナーの前で、陳列された品物を鷲掴みにし、上着のポケットに突っ込んだ。 「お客さん。今、ポッケに何入れました?」  柴本が声をかけるや、男は恐怖と焦りを放散しながら絶叫し、一目散に逃げようとした。だが、足に合っていない履き物のせいでよろめき、買い物途中のご婦人を巻き込んで盛大に倒れ伏した。  哀れなご婦人の介抱は他の店員に任せ、柴本は『助けてくれ』だの『殺される』だの(わめ)き散らす男を掴んで、どうにか店のバックヤードまで引っ張っていった。
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