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「もう一度聞くよ。あんた、名前は? なんでこんな事したの?」 「弁護士を呼べ! それまで! 何も! 話さん!」  質問に答えようとしない男を前に、店長の井上はため息をついて肩をすくめた。バックヤードに隣接した事務所、そのパイプ椅子に男は座らされていた。男が放散する体臭は、怒りが恐怖を追い越しつつあった。   「君たちは! こんなことをして! 許されると! 思っているのか!」  手首と椅子を軟質プラスチック製の結束バンドで固定されているのも気にせず、ガタガタと身体を揺らしながらわめき続け、ついにバランスを崩して椅子ごと床に転がった。倒れた衝撃と痛みで男は苦痛を放散し、再び叫び声を上げた。 「イノさん、ご家族呼ぶ前に警察呼んじゃったほうが良いかもしれないッスね。――お、なんか書いてある」  助け起こそうとした柴本は、倒れた拍子にめくれ上がった上着の裾に、布の名札のようなものが縫い付けられているのに気が付いた。 「えーっと。寒川久児(さむかわ・ひさじ)、62歳。へぇ、お住まいはこの近くですか」  ポケットから携帯端末を取り出し、地図アプリで検索すると、このスーパーから歩いて10分くらいの場所にあるマンションがヒットした。言葉に反応してか、ふたたび寒川の体臭に恐怖があらわになった。 「連絡先が書いてある。イノさん、この番号に電話して」 「でかした!」  満面の笑みで親指をぐっと立てる井上を、柴本はちらりと横目で見てから寒川氏に向き直り、ハンドサインだけを井上に向ける。 「さっすが防衛隊の特殊部隊にいただけのことはあるぜ!」 「イノさん、今そういうことは――」  調子に乗る井上を柴本が(たしな)めようとしたとき 「防衛隊だって!? ひ、人殺しぃー!!」  椅子ごと倒れたままの寒川が、口からあぶくを飛ばして絶叫した。井上は電話の子機を片手に、にんまりと満面にサディスティックな笑みを浮かべて見下ろし 「おうよ。こっちにいるのは防衛隊のエリート様だった男だぜ? あんたみてぇなケチな泥棒、どうなっちまっても文句は言えねぇなぁ」 「ひぃーっ! 来るな! 来るなぁー!」 「イノさん、もう少しだけ黙っててくれません?」  柴本は横目でじろりと睨んだ。
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