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 一同の目が視線が柴本に集中した。 「え? ええ、そう。そうなんです」  怒りは立ち消え、霧のように濃厚な困惑。そこにかすかに期待や喜び――やっと理解者に出会えた――が入り混じった。 「旦那さん、もしかしたら病気かもしれません。一度、病院で診てもらうといいですよ」 「どうして?」  自分の方を向いて目を(みは)る夫人に続けた。 「病気の人って独特の匂いがするんですよ。おれは医者じゃないから病名までは分かりませんがね。とにかく、旦那さんも悪気があってやった訳じゃない、そうでしょう?」 「あ、ああ。そうだ。そうなんだ」  柴本が寒川氏に目線を合わせると、さっきまでの荒ていたのが嘘のように静かな表情で頷いた。 「どうしてか分からないけど、衝動を抑えられないんだ。気付いたらやってしまって、やってから後悔する。その繰り返しで」  訥々と言いながら、俯いて悔しげに涙をこぼす夫を前に、夫人もまた堰を切ったようにその場に泣き崩れた。  ふたりが落ち着くのを見計らって、柴本は1枚の紙切れを取り出した。名刺だった。 「法に触れない範囲でなら、どんなことでも相談に乗りますよ。掃除や買い物代行、旦那さんの通院の付き添いでも、手が必要ならこちらまで連絡ください。お安くしますよ」 「そこはお前『タダにしておきますよ』じゃねーのかよ」  ドサクサに紛れて営業活動を始める様子を、井上は呆れたように見やった。 「おれだって、生活かかってるんですってば」  溜息とともにジト目で返す柴本だった。
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