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サッカー部のユニフォームを着た男子生徒が窓の向こう側に立っていた。
目高は近づいていき、鍵を下ろしてゆっくりと窓を開ける。
「侑李、もうすぐ部活終わる」
男子生徒はそれだけ言い、鋭い視線を私の方に一瞬向けると、何事もなかったかのように校庭へと戻っていく。
「一条と仲良いんだ」
サッカー部のエースの一条のことを学年で知らない人はいない。
誰が一条に告白して振られたとか、あの子も一条を好きらしいとか、興味がなくても自然と噂は耳に入ってくる。
背が高いくせに顔が小さくて、きりっと冷たい目とふっくらした唇が目を引く。
確かに見た目はいいかもしれないけど、クールに決めてる感じで、私はあまり好きではない。
というか、好きでも嫌いでもない。
「保育園から一緒なんだ。僕が普通の人より体が弱いから、気にかけてくれてるんだ」
「弱いって、どのくらい?」
私は幼い子供みたいな質問をした。
弱さに尺度はないだろうし、聞かれてもきっと困る。
「体が鉛みたいに重いんだ」
「なまり?」
私は黒くて大きい鉛の固まりを思い浮かべた。
「立ち上がったり、歩いたりするだけですぐ疲れちゃうんだ」
大きな鉛の塊を両手で抱えて廊下を歩く彼の姿を想像した。
小柄な彼は甲羅を背負った亀のように一歩一歩、ゆっくりと歩みを進める。
「生物部、足りてないなら、たまに来てもいい? 私、腕力には自信あるから」
「うん」
彼はくりっとした目を細めながら頷いた。
窓から入った風が彼の髪を揺らし、鉛みたいに黒くて重厚そうなピアスがちらっと見えた。
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