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小学校四年生から六年年生が集まるサッカーのクラブチーム。
俺は、六年生を差し置いて試合のレギュラーに選ばれた。
試合に出られることが純粋に嬉しかった。
でも、試合中に俺にボールが回ってくることはなかった。
俺を除いたメンバーでパスを回す。
ベストなポジションにいても俺だけにはボールが回ってこない。
俺の代わりに外された先輩は、誰よりも努力をしていることをみんなが知っていた。
なのに、大して努力もしていない俺がそのポジションをとったことに周りは腹を立てたのだ。
気づけば、みんなが走る中、俺は立ち止まっていた。
「カズマー! がんばれー!」
土手を見上げると、侑李の姿が見えた。隣には、優兄もいる。
炭酸の泡がシュワッと弾けるような感覚がした。足がふわっと地面から離れて、俺は再び走り出した。
パスが回ってこなくなっていい。自分が今、できることをしよう。
俺は相手チームにボールが渡らないようにディフェンスをする。誰よりも大きく声を出す。
俺は俺でいるために走り続ける。
「よくやったじゃん」
高校生になった優兄の耳には黒いピアスが見えた。
でも、相変わらずニッと八重歯を見せて笑う。侑李が嬉しそうに微笑む。俺もつられて笑う。
侑李は、先にゴールすることなんて端から考えていない。
ただ、自分を見失わずに、今の自分ができることを自分のペースでしている。
自分だけのゴールに向かって——。
それは当たり前なようで、きっと当たり前にできることじゃない。
『和馬と侑李は、ウサギとカメみたいだな』
優兄が言ったその意味がやっと分かった気がした。
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