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<1・おいでませ異世界へ>
誰得やねん!
最初に思ったのは、まさにそれだった。
「凄い……!」
真っ先目にしたのは、目をキラキラさせた黒髪長身のイケメンだった。
「シルフィ君が来てくれたよ!みんな、来て来て!」
一見するとヤクザの幹部にでも見えそうな派手めの白スーツに黒髪の青年。しかし、声は存分柔らかいし喋り方も上品であるようだ。ちょっとみんなを呼んでくるから待ってて、と言われて俺は一人ぽつんと部屋に残される。シルフィ君、と言われた。ひょっとしてそれは俺の名前、なのだろうか。
「え、ええ……?何がとうなってんの?」
白い石造りの部屋の真ん中に、青い魔法陣。加えて巨大な金枠の姿見が備え付けられた部屋。ドアはたった今スーツ姿の青年が出ていったもの一つのみ。思わず上げた声は――記憶にあるより遥かに高くて可愛らしいものだった。
そう、まるで。声変わり前の少年のような。
というか、シルフィという名前、どっかで聞いたことがあるような?
「ぬおっ!?」
姿見で自分の容姿を見た俺は、びっくりしてその場に尻もちをついてしまった。フリフリのピンクのスカート、セミロングのピンクの可愛らしい髪、キラキラとした大きな緑色の瞳、白い肌にバラ色の頬。まるで美少女さながらの姿をした“俺”がそこに映っていたかりである。
――お、女になった……訳ではないな。下はついてる。
思わず股間の膨らみを確認してしまった俺。性転換したわけではないが、この姿では誰かどう見ても立派な男の娘、ではないか。当然、記憶している俺の本来の容姿はこんな可愛らしいものではない。というか、年齢も違う。
――お、落ち着け。落ち着けえ。と、とにかく今の状況と、最後の記憶を思い出すんだ。
俺の名前はシルフィ、ではない。千葉聡、二十五歳、独身恋人ナシ。ヤンキー高校を卒場したあと、ずっとコンビニやらファミレスやらのバイトを転々としていたフリーターである。現代日本、東京出身。家族は両親と妹一人、どちらも今は一緒に住んでいない。
――よ、よし。大丈夫だ、自分を忘れてはいないぞ。
とりあえずパンツ丸見えはまずい、とスカートの足を閉じて座り直す。ああ、何で下着が女物なのか。スースーする上に、股間が窮屈で辛いのだが。
――そうだ、確か……最後のバイトは居酒屋“くのん”だった、よな。
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