<epiro-gu> ♫~ パリの空の下・セーヌは流れる ~♬

34/35
前へ
/302ページ
次へ
 『アレは魔物だ』  『サイコパスとでも言うのかな、とんでもなく残酷なことを平気でやる女だ。僕はアレと同類の魔物だが、君は違う』、だから彼女の毒牙が届かないところにいて欲しいと、クロードは言うのだ。  『ミツコの一番の好物はお金だ。それをたらふく与えて、あの女の牙を抜くまでは、君は決してそばに寄ってはいけないよ』  厚いカーテンで仕切られた窪みの中に引き入れながら、それは心配そうに抱き締めたのだ。  そのままベッドの上に降ろすと、カーテンを引いて外の世界を締め出した。  そこからは二人だけの世界!  ところで。  パリのシテ島にある別荘に、ひとり取り残されたミツコだが。クロードが亜美を大型クルーザー船に乗せて、南フランスからエーゲ海に向かって逃走したことを知ったのは、残念ながらクロードと亜美の婚姻が成立した後だった。  暫くは茫然自失。  意味が掴めなかった。最後に会ったクロードは、一か月後に迫った結婚式の事を口にしていたはず。  当然だが、ミツコは実家に招待状を出した後だった。ついでに妹の瑠衣にも、パリ社交界のレディーになった自分の姿を見せつけようと、招待状を送りつけてやったのだ。  「今さら、何なのよッ」、怒りが沸々と湧いてくる。  これじゃぁ、面子が丸潰れだ。  訪ねてきた弁護士を、暴言の渦に巻き込んでやったのだが。それ位じゃ、ミツコの気はおさまらない。  パリ社交界の華、黒髪の伯爵夫人。クーデンホーフ=カレルギー・ミツコの再来になる夢が、幻と消えたのだッ。  クロードの奴にどんな仕返しをして遣ろうかと、思い付く限りの策謀を模索したが。敵もさるもの、すでにエーゲ海に逃走済みとは腹が立つ!  地団駄踏んで悔しがったが、そのまま腐らないところがさすがはサイコパス・光子だった。  恥をかかされた可哀想な婚約者を前面に押し出すと、パリの同情を一身に浴びた。勿論だが、あらゆる手を尽くしてマスコミにも可哀想話を売り込んだ。  同情で溢れた世論を、更に煽るために。ミツコも巻き込まれたあの日本で起こったテロ事件に、鈴木亜美が関与していた疑いがあると、匿名の投書を使ってSNSに流してやったのだ。  お陰で、ミツコは今や時の人。  クロードの名声に、タップリと泥を塗りつけてやったばかりか。日本円で0が十個は並ぶ慰謝料を、シッカリと請求した。
/302ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加