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第二話 ナイトメアな物語! (文哉と郁也・続編)
1・(光子の暗躍)
「ご依頼の調査書です」
中肉中背のうす禿げ頭が、手書きのぶ厚い紙の束を差し出した。
顔をしかめ、受け取りはしたが。思わず文句が口から出た。
「ねぇ、アナタ。データを送ってくれれば良いのよ」
「ペーパーレスって言葉を知らないの?」
禿げ頭が申し訳なさそうに、小さく抗弁する。
「ウチの探偵事務所の方針ですから」
「パソコンデータはハッキングされる恐れがありますが。紙は燃やしてしまえば証拠が残らないと言うのが、ウチの信条でして」
これも探偵事務所の方針だと、申し訳なさそうに言い訳をした後で。今後は調査費用の請求書を、ゴソゴソと擦り傷まみれのよれた鞄から取り出した。
『明朗会計、ニコニコ現金払い』と書かれた封筒に入っているその請求書を、光子は汚染物質のように指先でつまむと。しぶしぶ受け取った。
開いた請求書の桁を見て。
「間違いじゃないの?」、突き返す。
5の下に、0の数が五個も並んでいるのが目に入る。
「藤原家の資産内容と、双子のご兄弟の私生活をとのご要望でしたから」、当然の請求だと禿げ頭が力説した。
藤原家のガードは思いのほか固く、調査のために使った費用が沢山かかったのだと泣きを入れた。
特に私生活のガードが並みじゃない。
「お屋敷の執事が難物でして」
どうやら執事の室谷は、兄弟の父親の代から藤原家に仕えている、そうとう出来る執事のようで。屋敷のすべてをキッチリと掌握しているらしい。
「ほら、口の堅い家老が出てくる時代劇。アレみたいですよ」、禿げ頭が意味不明な説明をするのを、光子は不機嫌そうに聞いていたが。
取り敢えず、パラッと調査書をめくった。
最初のページから、その後の数ページに渡って。双子の両親のことが記載されていた。
双子の父親は、藤原光太郎。母は里美。二人が生まれた時には、光太郎はすでに四十代も半ば。やっと生まれた後継ぎと言う事だろう。
父親も双子だったようで、弟は祐太郎という。今だに独身で、兄夫婦と一緒にカナダに移住したと書かれていた。(仲の良い兄弟らしい)
その次のページには、光子に取ってはもっとも大事な情報が記載されていた。つまり、藤原家が所有する資産の内訳だ。
目が眩むほどの富を、江戸の昔から代々受け継いできた家である。今や国内ばかりでなく、世界中のあちこちに別荘を保有。その交友範囲は、光子の目から見ても眩いばかり。
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