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クロードの手が亜美の手に、シッカリと添えられる。まるで夢の中の出来事のように・・そのままクロードに誘導され、婚姻届にサインをした。
ユックリと身体を離すと、クロードの手が設えられた室内電話を取り上げた。待機させておいた船長と弁護士を、船室に呼び入れるためだ。
『証人になってくれ』と、言葉少なく頼むクロード。
『今から彼女は、メロヴィング朝から続く由緒正しい伯爵家の当主である私、クロード・シモン・サンジュスト・デュ・ブラン伯爵の、正式な妻になる』、二人の証人の目の前で厳かに誓うと、クロード・ブラン伯爵は婚姻届にサインをした。
その婚姻届を弁護士に渡すと、法的な手続きを取るように指示したのである。
『ミツコ様をどうなさるお積もりですか。このままでは、たいそうなスキャンダルになりますぞ』
弁護士が苦言を呈した。
『彼女には、クロード・ブランが婚約不履行の責をすべて負うと伝えてくれ。アレが望むままの金額を、望む形で、すぐにでも支払う用意がある』、冷たい言葉で切り捨てた。クロードはミツコが、家庭教師の一人と情事を重ねている事も知っている。
結婚式を一か月後に指定したのも、妊娠していないのを確かめる為だったのだが。婚約破棄を大人しく受け入れるなら、ソコには目を瞑ろうと言うのだ。
『なるほど』、弁護士が婚姻届の用紙を鞄にしまうと、下船して飛行場へ向かった。クロードから押しつけられたパリでの処理案件が山済みなのだ。
まずは、クロードの婚姻を確実なものにするのが先決。その後でゆっくりと、パリの別荘にいるクロードの万年婚約者と話しを付ける。
『慰謝料の額が多額になるのは目に見えているな。だがクロードの事だ、支払いは大丈夫だろう』、その成功報酬を考える彼の顔の筋肉が、思わず緩んだのも致し方のない事だろう。
さて、そのクロードだが。
大型クルーザー船は、恋する二人を乗せてマルセイユ港を出航。目指すはエーゲ海に浮かぶ小島にある彼の別荘だ。
『しばらくは君と二人だけで過ごしたい。やっと見つけた僕の妻だからね』、甘い言葉を耳元で囁かれ、シッカリと抱き締められて亜美は夢心地だ。
クロードが亜美を連れて、パリから出来るだけ遠くに逃げ出したのには、理由がある。彼はミツコと言う女を知り尽くしているのだ。
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