206人が本棚に入れています
本棚に追加
/252ページ
「零ちゃんが、ちゃんとお兄ちゃんっぽい発言してる」
「ぽいって何だよ」
そう言うと、大きくため息をついて、私を眺める。
「お前も生意気に育ったよな」
「何それ?」
ちょうど場所は公園に差し掛かった辺り。
零ちゃんは足を止めると──遠くの方に、視線をやる。
「きっと紫さんが居たら、俺は杏南の"お兄ちゃん"にさせられてたのかもな」
「……そうかもね」
きっと母が生きていたら、私は別の人を選んでいただろう。
母が望みそうな──零ちゃんも望んでいた、普通で平穏な生活を送れそうな人を。
──この人と結ばれることはない。
そう諦めながら。
「でも私は、一番好きな人と結婚できたから良かったと思う」
きっと私は、どんな男性と会っても──零ちゃん以上に、好きになれる人と出会うことは無かっただろう。
だから今の、この人と結婚しているという事実は、昔の自分からすると予想外で……一番嬉しい話なんだと思う。
零ちゃんの腕に、自分の腕を絡ませてみると、こっちを見て微笑んだ「色々すっ飛ばしてしまったけどな」と。
「何かその辺は申し訳ないなぁとは思ってる」
最初のコメントを投稿しよう!