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実は母が最後に暮らしていたというナポリにも行ってみたかったのだが、零ちゃんから『あの周辺はやめといた方がいい』と言われたので諦めた。
その判断は正しかったらしく、警察の人も『普通にローマやフィレンツェを観光する分には問題ないだろう。だけどサレルノからナポリは、念のため近付かない方がいい』とのことで、判断は正しかったようだ。
「イタリアからすぐ日本に帰るのですか?」
「いえ、ロンドンを経由して帰ります」
そう言うと何故かベネット教授が身を乗り出す。
「是非私の大学に来てください!」
なぜか日本語でそう言って、私の手を握った。
「ドルフRの作品がいくつか所蔵してあります。それにミヤモトユカリの作品もいくつかあります」
「本当ですか?!」
「うん、本当だよ」
微笑む彼を見ながら、少し泣きそうになる。
母は目の病気をした後、自分の作品を殆ど処分してしまったから。
だから私の所に"完成品"として残っているのは、あの私にプレゼントした絵だけなのだ。
多分母なりの、この世界との別れの決断だったんだと思う。
「実はいくつか、ミヤモトユカリの作品は個人で所有している。あなたに差し上げてもいい」
えっ…と驚いた私に──ベネット教授は、意味深な笑みを浮かべる。
「但し、一つだけ条件がある」とそう言って。
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