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しばらく絵を眺めていたが、彼女は「ごめんなさい、帰らなければいけない」と言った。
「私は長い時間、ここに居ることはできない。次のフランス行きの飛行機で帰らなければいけない。今日だけ特別に、ここに来ることを許してくれたの」
「今はフランスに住んでるんですか?」と聞くと「いえ、イギリスなの」と。
説明してくれたようだが聞き取れず、零ちゃんが「念のためにフランス経由で帰るって。あの後、司法取引で転々として、最終的にイギリスに渡ったんだと」と訳してくれた。
その後またイタリア語で、何かを話している。
早口で余計に何を話しているかはわからない。
だけど──零ちゃんの伏し目がちな瞳も、彼女の泣きそうな表情も、きっと過去の謝罪の話だろう。
「Mi dispiace tanto.」
本当にごめんなさい、その言葉は聞き取ることができた。
「Olivia」
彼女が呼ばれて振り向くと、数人の人が立っていた。
警察の人と、真ん中の男性を「My husband」だと紹介してくれた。お義父さんから、名前が変わったのは結婚したからとは聞いていた。
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