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彼女は自分の夫を指して「彼も初めて来るの」と。
「本当はもっと、この綺麗な海を見ていたい」
彼女は遠くの水平線を見つめる。だけど振り向くと「だけど、もうここには居られないのね……」と、寂しそうにそう言った。
そしてすぐに、別れの時間がやってきた。
私達二人も、見送るために空港まで戻ることにした。
零ちゃんはなぜか彼女の旦那さんから、親しげに話しかけられている。
疑問に思っていると「見たことあると思ったんだ」と。
「あの人、イギリスの大学の教授だよ。西洋美術における東洋文化を研究してるケント・ベネット教授だ」
なるほど……と、正直納得はした。
私と親子ほどの年齢差はありそうな見た目でも、少し浮世離れした雰囲気を感じるのはそういうことか、と。
見た目よりも、雰囲気が随分と若く感じるのだ。
途中から三人の会話が英語に切り替わったので、少しだけ聞き取れるようになった。
ぼんやりと聞いていると、可愛そうだと思ったのか、なぜか警察の人に話しかけられる。
「これからのご予定は?」
「ここに一日滞在した後、ローマとフィレンツェに行きます」
「フィレンツェは素敵ですよ。楽しんでくださいね」
念のためスマホの翻訳アプリを起動したが、ゆっくりと英語で話してくれた為に聞き取れた。
にっこりと笑う警察の人に、私も微笑みかけた。
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