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次に案内されたのが、ベネット教授の部屋だ。
「アンナさんにプレゼントするのは、これが一番だと思った」
そして一枚のキャンバスが渡される。
「恐らくミヤモトユカリの後期の作品です」
キャンバスには、子供の膝の中にうずくまる猫が描かれてあった。
「これ、描いてるところ見たことがある……」
確か昔、あのサンルームで……祖母が笑いながら、描いている姿を見ていた記憶がある。
「全然懐かない子だったの」
ここに描かれているのは、大昔に飼っていた猫。
だけど人には全然懐かずに、ある日突然脱走して戻らなくなった子だ。
絵を見ながら、さっきのベネット教授の言葉の意味を噛み締める。
『何十年、何百年先だって、会うことができる』
忘れていた風景が、脳裏に浮かぶ。
筆を走らせる母に、優しい眼差しでそれを見つめている祖母。
この絵を見ると──もう居ない人に、会うことができる。
「最高のプレゼントです、ありがとうございます」
そう頭を下げると、ベネット教授は満足そうに微笑んでいた。
そして部屋のドアをノックする音が響いた。
現れたのは──オリビアだった。
「そろそろ時間だね」とベネット教授が支度を始める。
「Olivia, Please take care of her. 」
彼女をよろしく。そう言って二人は部屋を出て行った。
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