箱庭の行方

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実はベネット教授が出した一つの条件、それは零ちゃんが大学で一コマ授業をすることだった。 内容は何でも、とりあえず喋ってくれたらいいとのことで、今から学生相手に一時間喋ってくるらしい。 オリビアは私を見て、ゆっくりと英語で「あなたは見に行かなくていいの?」と。 「私が見に行くと失敗するわ」 そう言うとクスクス笑っていた。 「じゃぁ、私と一緒に大学を回りましょう」という提案に「お願いします」と頭を下げた。 実は彼女は、この大学で司書をしているそう。 常に片手にスマホの翻訳アプリを持っていたが、彼女の英語はわかりやすくて殆ど理解することができた。 そこはさすが司書だなぁと。本から色んな言い回しを身につけているのだろうと感心した。 「私の家には沢山の本があったの。父は絵を描いている以外、ずっと本を読んでいた。だから贋作作家として絵が描けた。 その人が好きだったものが書かれてある本を読んで、見たものが書かれてある本を読んだ。だから自分が本を通して、その人の人生を体験できたのだと思う」 その言葉を聞きながら──なるほどなぁと。母が私に本を与えたのも、そういう人の子供だったからなのかと、少し納得した。
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