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「機嫌直ったか?」
彼が私の後ろに立って、頭をクシャリと撫でた。
「ごめんな、今日帰れるかギリギリだったんだ。飛行機もギリギリ変更できて、ホントに数時間前まで帰ってこれるかわからなかったんだ」
そう言われると、何も言えない。
「ご飯も出来たし、食べようか」
テーブルの上には、少し豪華な料理が並んでいた。
ローストビーフに、カルパッチョ、ラザニア……どれも時間が無いなりに最大限豪華にしようと頑張ってくれたんだろう。
そしてトランジットで立ち寄ったと言う、フランクフルトで買ったチーズも切って並べられた。
「このチーズ何かすごい美味しい」
「だろ?店で食べるのはもっと上手いんだけど」
「へぇ、そうなんだ」
──でも連れてってよ、とは言えない。
夕飯を終えると、私は久しぶりにワインを開けた。
ソファーでテレビをぼうっと見ながら、ワインをグラスに注いでいく。
それを見た彼が、物珍しそうに私を見ている。
「味わかるようになった?」
「うーん、わからない」
「だろうな」
だろうなって何だ……と思いつつ。
彼は「ほどほどにしときなさい」と、そう言って私の前に小さなクリスタルの容器を置いた。
──確かにこのワイン、好きだったよなぁ。
そう思いながら容器の前にも、小さなグラスを置いて少しワインを注ぐ。
一度でいいから、一緒にお酒を飲んでみたかったな……なんてそんな事を思いながら。
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