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その二人での生活が終わったのが、小学三年生の頃だった。
「来月からおばあちゃんと暮らすよ」
ただそれだけを言われて、私はこの神奈川の郊外に引っ越してきた。
そして今も住んでいる家──昔祖父母が住んでいた洋館の縮小だと言っていたこの家で、祖母と母と私で暮らし始めた。
ここは会社を畳んだ祖父母が、終の住みかにと作った家。祖父が亡くなった後は祖母一人で暮らしていた。
私はたまに訪れる、この家が大好きだった。
緑に囲まれた、まるで小さな城みたいな家。
広い庭には、色とりどりの果実がなる木が植わっていて、まるで宝石のよう。
室内はクラシカルなインテリアに、至るところにはアンティークの可愛い雑貨が並べられていて……その光景は、まさにお姫様が住んでいるお城を具体化した場所だと、そう思っていた。
だからここで暮らすことを、すごく喜んでいた。
まぁご想像の通り、母と引っ越した理由が祖母の介護の為で、その頃には一人で外出が困難な程足が弱っていた。
元々母は通いで色々としていたが、ついに限界が来たらしかった。
今アトリエと化しているサンルームが祖母の部屋で、母はいつも祖母の隣で絵を描いていた。
だから昔も今も、ソファーに座ると仄かに絵の具の香りがしていた。
そんな祖母は、数年後にこの世を去った。
──それが地獄の始まりとは知らずに。
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