第一部 『作り物』の世界の中

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第一部 『作り物』の世界の中

時刻はもう夜の七時を過ぎていた。 (遅くなっちゃったな……) 私は急ぎ足で、横浜駅の構内を歩いていた。 仕事で少し残業をしたのと、昨夜急にドライヤーが壊れてしまった。だから途中下車をして先程買い物を済ませたところで、普段ならこの時間は、もう自宅の最寄駅に到着している時間だ。 一応通勤で横浜駅を通るとは言え、頻繁に途中下車をするわけではない。今日も数ヶ月ぶりに訪れた。 巷で横浜駅は『日本のサグラダ・ファミリア』と言われている通り、どこかしら工事が行われていて、方向感覚が狂ってしまうことがよくある。 実はさっきまで行きたい方向と違う方向に進んでいたことが判明して……私は数少ない直通の電車に乗るために、急いで駅構内を駆け抜けていた。 「Excuse me……」 見るからに『観光客』という外国の人が、私を見つけては話しかけてくる。 「Sorry,I can't speak English.」 私は丁寧にお辞儀をして、足早に歩いていく。 英語を話せないのは本当だから。 (……けど、やっぱり『そう見える』んだろうなぁ) 改札を抜けた所にある、壁の鏡に映る自分を見ながらしみじみと思う。
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