3. 羊

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「行こう、ほら、ドア開いた。」 エレベーターの中にそっと押し込まれる。ああ、安心しちゃってるんだよなあ、あたし。こんなにチョロく。気付けば手を引かれて玄関の中に入っていた。今日、朝バタバタしてたよな、部屋滅茶苦茶じゃん。でも、ま、いいか。ヒールを脱いで、よろけながらもちゃんと揃えてフラフラしながらリビングに辿り着く。えっへへ。訳もなく笑いが込み上げる。 「ちょっともう。ほらここに座って。」 大好きな声がして肩を押される。そのままストンと座るとどうやらソファーらしい。 「水取って来るから、寝るなよ?」 寝るなよって、ちょっと乱暴そうな言い方、初めて聞いたなあ。それに自分の家なのに、自分以外の人がたてる音が聞こえてくるって、何か良いんだよねえ。食器扉が開く音、蛇口から水が流れる音、キュッと蛇口が閉まる音、私より重い足音が近づいてくる音。うふふ。 「うわ、寝てるよ。絵梨花、ほら起き上がって。まだ寝ないで。」 身体がゆっくり起こされる。しっかりとしたウールがおでこに当たって心地いい。うっすらと目を開けると、やっぱり黒のセーターだった。 「黒、似合うよね、ほんとに。モデルみたい。」 はあ?いいからほら水飲んでと、口にグラスがあてがわれる。ごくりと飲むと、思ったよりずっと冷たくて、でも美味しくて、結局全部飲み干した。
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