6.無駄な自信と天狗

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「こっちを見て。」 両手に力が入って促される。恐る恐る見上げると、黒い瞳が真っ直ぐにこちらを見ていた。じっと。 「何が見える?」 「え?あの、ええと、希彦、だけど。」 「うん、そう。絵梨花に結婚って言った途端に避けられて、必死に会えるチャンスを待っていた、そんな情けない俺だよ?半年間、絵梨花が愛してるって言ってくれたことだけを思い出して、それで何とか気持ちを保ってきた。もうこれで今までのこと全部なしにされるのかって心底怖かった。あんなに嬉しかった気持ちも何もかも結局ダメになるのかって。」 声が少し震えているし目の色が深くなっている。 「絵梨花が振り向いてくれるなんてこと、最初からあり得ないと思ってたんだ。でも気持ちは止められなかった。いつだって心の中はカッコ悪いくらい必死だった。」 「え、うそ、それはさすがにないよ。だって希彦、余裕綽綽だったじゃない。」 思わず口を挟んだ。あの“女ホイホイ”だよ? 「そう見えるようにもう全力投球。持てる力と技、全部投入したって感じ。」 眉が情けなさそうに下がっている。珍しい。 「でもそれでも絵梨花はいつだって心半分な感じだろ。センター長は相変わらずウロウロしているし。結局俺の片想いのままなんだって。結婚承諾してくれたのだって、俺の勢いに気圧されたみたいなところだし。空回りしてんだよな、結構。」 言われてることの半分も頭では理解出来ていない。でも心が。言葉は入ってこないけれど、その言葉の奥にある熱ははっきりと伝わってくる。私の手を包む大きな手が湿っている。また緊張している。違うよ、違う、そんなんじゃない。 「私、希彦のこと、最初から好きだったよ?だから信じられない気持ちの方が大きくて。でもただそれだけ。希彦が私に片想いなんて、そんな時一瞬だってなかった。だっていつだって大好きだったもの。何かあるともう電話でもいいのに、必ず来てくれるところ、あれ本当に嬉しいし。救急が四六時中修羅場なの知ってるから、余計に。ほんの少しでも顔を見られると、それだけでもの凄く元気が出てくる。でもそんな簡単な自分が恥ずかしくて、いつも不貞腐れたみたいな態度でごめん。自信がなくてごめん。希彦のこと、悲しませて本当にごめんなさい。」 途中から手が離されてその代わりに背中に回っていた。頭のてっぺんに希彦の唇を感じる。もう許されているみたいな気がしてくる。ダメだ、すごくいい気になっている。
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